魔界姫志ーまかいきしー
突如語りだしたカナさんの顔を見れば懐かしむような、見たことの無い薄ら笑みを浮かべながらまた、カップへ口付けた。
夏、向日葵…その単語で思い浮かぶのは
ここへ向かう道中に貼られた壁画のこと。
シキが唯一触れた、昔の——
遠い遠い記憶の片隅にいるカナさん。
「 そんな事を私に話してなんになるの。
—— 油断させたいの? 」
もう信じることなどできない私はその言葉に不信感を覚えて棘を含ませ牙をむける。
「 いいや。私はこちら側に着いた身。
もうあの頃には戻れない、例え戻ろうと思ったとてあヤツらが許しはせんだろう。
どこで道を間違えたのか自分でも分からないが——ただ一つ言えることは。
私がお前のような神の子ではなく
ただ災いをもたらす悪魔の子だから。」
そう言って悲しげにまつ毛を伏せたカナさんを見て、胸がチクチクと痛む。
彼女だって本当は心のある人間なんじゃないのかって。
この戦いも不本意で、悪魔の子だからって理由だけで色々なものを諦めて手放してきたんじゃないのかって。
「 …私だって神の子じゃない。
この世界の住人じゃないし、こっちの世界の私が神の子だったとしても私にはやっぱり関係ない。
でも…だけど、見ず知らずの人を放っておけるわけないし…
カナさんのことだって本当は——! 」
なにを、口走って自分語りしてるんだろう。
この人は私の…みんなの敵なのに。
敵のボスなのに。
私はどうして甘さを捨てきれないんだろう。