太陽の家
「……イモ子?」

「あっ…………」

ユキの声で、イモ子は閉じかけていた瞳を開けた。

(私ってば……何を……)

思わずキスされるかと思い、目を閉じた自分に、赤面した。

「わー土まみれ」

ユキはイモ子の上体を起こし、イモ子の服についた土を払った。

どうやら、ユキに話しかけながら後ろ向きに歩いたせいで、足元の花壇に気がつかなかったようだ。

そして、そのまま花壇に背中から突っ込んでしまったのだろう。

「ごめんな、俺、注意遅くて……」

「う、ううん。こっちこそ……」

イモ子はユキに顔を見られないように、顔を伏せながら立ち上がった。

その拍子に、イモ子の足下に置いてあった植木鉢が当たり、階段をコロコロかけ降りて行った。

「あ……」

イモ子が飛び出すより早く、植木鉢は車道に転がり、通りかかりの車のタイヤに潰された。

グシャっと……植木の潰れる音がした。

「あー!」

ユキとイモ子が車道に出ると、原型なくつぶれた植木鉢だけが残った。

車は気がつかなかったか、責任逃れかはわからないが、そのまま通過していってしまった。

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