GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
桜井のお袋って、ちょっと変わってんのな。
翌日ぼやくような口調で梨田は美奈子にことのいきさつを話した。
箱入りなのよ、と美奈子は軽く受け流した。悪い虫がつくんじゃないかって心配しているのよね。
虫なんかつくかよ。おまえが桜井に四六時中張りついて、登下校も全部エスコートしてりゃ、話しかける隙もねえっつーの。
なあに、梨田くん、隙をうかがってたの? 笑って切り返した美奈子に梨田は、おれじゃねえよ、柿崎だよ、と言った。
「あなた、柿崎くんとどういう知り合い?」
「知りたい?」
電話の相手は、含みを持たせた声で、聞き返してきた。
「あいつ、おれの雇った探偵なの。琴子と同じ中学に行って、彼女のこと、探ってくれるように頼んだんだ」
「ふざけないで」
「教えたら君も、琴子ちゃんのこと、おれにもっと教えてくれる?」
「聞きたければ、直接聞けば?」
「いつ?」
相手は即座にそう聞き返してきた。
「きょうは君たちそうそうに帰っちゃうし、電話は取り次いでもらえなかったんだよ」
美奈子は溜息をついた。
「琴子の何が知りたいの?」
「家庭環境とか、いろいろ」
「聞いてどうするの?」
「義妹に興味があるってだけじゃだめ? 琴子ちゃんが親父の病院で働く気なら、おれたち将来は同僚になるわけだし」
「どうせ、あきらめさせようとしているんでしょ?」
今度は梅宮が溜息をつく。
「人が外側からどうこう言ったところで、結局決めるのは本人だろ? あきらめさせるとか、そんな大それたことを考えていたわけじゃないよ」
「あきらめろってはっきり言ったくせに」
「まあね。でも、あきらめないってはっきり言われたし」
電話の向こうで梅宮はくっくっと笑った。
「可愛かったなあ。動揺して腕とか震えてんのに、突っ張らかっちゃってさ。病院を譲る気はないけど、職場で一緒になるのは悪くないかもと思い直したよ。ああ、その前に、高校では後輩だよね。もちろん受かればの話だけど」
相変わらず小ばかにしたような調子で梅宮はそう言った。
「考えてみれば、血のつながった妹なんだよね。女の子として見ても結構可愛いし。おれとしてはやっぱり医者なんかを目指すのはもったいないと思うんだけど、美奈子ちゃんもそう思わない?」