GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
知明ちゃん、帰るわよ。あなた、受験生なのよ。こんなところでフラフラしてていいと思ってるの? それにママ言ったでしょ。あなた、その子にだまされてるんだから。その子、援助交際してたのよ。写真見せたでしょ? あなたとつきあい始めた5月頃にもまだ、その相手と会っていたんだから。興信所の人が、そう報告してきたのよ。
知明、あたし、援助交際なんてしてない。
玄関で立ちすくんだ少女が、悲鳴のような声をしぼり出した。
なら、これはどう説明するの? 母親はバックを開けて写真の入った封筒を取り出す。少女がサラリーマン風の男と肩を組んで笑いあっている写真。ホテルのロビーらしきところに座ってお茶を飲んでいる写真。遊園地とおぼしき場所で、一緒にアイスクリームを食べている写真……。
少女に突き出された写真を、知明は横から無造作にひったくると、母親に突き返す。今はそんな話をしてる場合じゃないんだ。帰ってくれ。
帰るのはあなたよ。ママ、言ったでしょ。知明ちゃんがその子とつきあうのをやめないのなら、この写真をその子のうちの人に見せて、知明がこの子にだまされているから、何とかしてくれって言うわよ。
勝手な真似をするなという知明に、母親は言葉を返す。勝手な真似をしているのは、あなたの方でしょう。
そして、母親は少女の方に向き直る。いいこと、知明はあなたみたいなふしだらな子とつきあっていいような子じゃないんですからね。もう、金輪際近寄らないでいただきたいわ。
目を見開いた少女に、母親は次々に酷い言葉を浴びせはじめる。
待ってくれ、おれ、彼女を妊娠させてしまったんだ。きょうは手術して帰ってきたところなんだ。休養が必要なんだ。だから帰ってくれよ。罵詈雑言をさえぎるように投げかけた知明の告白にも、母親は動じない。
引きつったような笑いを浮かべ、少女をねめつけて、ひどく冷たい調子で返す。