GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
お金を払って店を出た途端に怖くなった。短くしてきなさいってあれほど言ったのに、あなたはまたママの言いつけを破ったの? 怖い顔で、怖い言葉で怒鳴り続けるママの顔が浮かんだ。下を向いて、いつまでも黙ってママの声を聞いているしかない自分の姿も。足がすくんだ。
お店のスタッフの呼んでくれたタクシーに乗り込むと、行き先を尋ねる運転手に、我知らず駅までと答えていた。駅から電車に乗り、最寄りの駅で降りたが、そこからはどうしても家に足が向かず、気づいたら小学校にいて、鉄棒やキャッチボールをする子供たちを眺めていた。
「あたし、本当は決心したつもりだったんだ。ママに何を言われても、頑張ろうって。あたしの髪だし、伸ばしても誰にも迷惑かけないし、一生懸命勉強して成績下がらないように努力するし、だからこのままでいさせてって言おうって。なのに、怖くて……怖くて……きっとまた叱られる。梅宮さんのことだって、ママ、全然納得してなかったみたいだから、きっとまた聞かれる。そう思うと帰りたくなくて……こんな風にぐずぐずしてても仕方ないのに、どうしてもダメで……」
「琴……」
「美奈が大好きだって言ってくれた髪だから、切りたくなかったの。だから、思いきってママに逆らってみようと思ったの。だけど、気持ちがすくんじゃって、怖い気持ちだけがどんどんふくれていっちゃって。家に向かって歩こうとしても、ドキドキ動悸がして、めまいがして、足が本当に動かないの。どうしたらいいかわからなくなっちゃって……あたし、美奈みたいに強くなりたかったのに、ちょっとならなれるかもって思ったのに、やっぱりダメなままで……ママにも対決できないし……ほんとにどうしたらいいのか……」
あとはゴムで止めるばかりだった編み込みから手を離し、美奈子は後ろから琴子の頼りなげな肩を抱きしめた。
「ごめん、琴。わたしがおととい、変なこと言ったからだね」
一度ぐらいママに逆らってみればいい。あのときは本気でそう思った。けれども美奈子の言ったとおり勢いで行動してしまい、その反動で怯えてすくんでいる彼女を見るのはいたたまれない。
「ううん」
琴子は大きく首を振る。
お店のスタッフの呼んでくれたタクシーに乗り込むと、行き先を尋ねる運転手に、我知らず駅までと答えていた。駅から電車に乗り、最寄りの駅で降りたが、そこからはどうしても家に足が向かず、気づいたら小学校にいて、鉄棒やキャッチボールをする子供たちを眺めていた。
「あたし、本当は決心したつもりだったんだ。ママに何を言われても、頑張ろうって。あたしの髪だし、伸ばしても誰にも迷惑かけないし、一生懸命勉強して成績下がらないように努力するし、だからこのままでいさせてって言おうって。なのに、怖くて……怖くて……きっとまた叱られる。梅宮さんのことだって、ママ、全然納得してなかったみたいだから、きっとまた聞かれる。そう思うと帰りたくなくて……こんな風にぐずぐずしてても仕方ないのに、どうしてもダメで……」
「琴……」
「美奈が大好きだって言ってくれた髪だから、切りたくなかったの。だから、思いきってママに逆らってみようと思ったの。だけど、気持ちがすくんじゃって、怖い気持ちだけがどんどんふくれていっちゃって。家に向かって歩こうとしても、ドキドキ動悸がして、めまいがして、足が本当に動かないの。どうしたらいいかわからなくなっちゃって……あたし、美奈みたいに強くなりたかったのに、ちょっとならなれるかもって思ったのに、やっぱりダメなままで……ママにも対決できないし……ほんとにどうしたらいいのか……」
あとはゴムで止めるばかりだった編み込みから手を離し、美奈子は後ろから琴子の頼りなげな肩を抱きしめた。
「ごめん、琴。わたしがおととい、変なこと言ったからだね」
一度ぐらいママに逆らってみればいい。あのときは本気でそう思った。けれども美奈子の言ったとおり勢いで行動してしまい、その反動で怯えてすくんでいる彼女を見るのはいたたまれない。
「ううん」
琴子は大きく首を振る。