GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
言いながら、美奈子は琴子の肩に置いた両手に力を込め、琴子を引き寄せた。目を見開いた少女は、引き寄せられるまま平均台から立ちあがった。
「我慢してつきあってるなんて、そんな風に思われちゃったのは、わたしも、いえ、わたしが悪かったんだわ。ちゃんと言えばよかった。わたし、本当は琴がどんなでも構わない。髪が長くても短くても、強くなくても、ママの言いなりでも。琴が本当にそれでいいなら、それでいい。だから、わたしが呆れてるとか、離れていくとか、そんな風に思わないで」
柔らかな前髪に覆われた琴子の丸い額に、こつんと額をくっつけて、内緒話をするような小さな声で、美奈子は言い加えた。
「だって、わたし、琴のことが大好きなんだもの」
「美奈……」
見開かれた少女の瞳は不意に揺れ、盛り上がった涙が一筋頬を伝う。それを見た美奈子の胸は、ぎゅっと締めつけられるような、切ないような、不思議な気持ちで満たされる。こんな自分の一言で動揺して涙を流す琴子が可愛くて愛しくて、どうしようもなくて。
ふっくらとあどけないラインを描いた琴子の頬をそっと包み込んで、美奈子は聞いた。
「もしかして、知らなかったの?」
琴子は泣き笑いのような表情で答えた。
「知らなかった。おうちがお隣同士だし、美奈はいつだって面倒見がいいから、放っとけなくて、仕方なくてあたしの面倒見てくれてるんだと思ってた。でも、あたしがあんまりぐずで弱虫だから腹を立ててるんだって。おととい美奈がむっとしてたのはわかったし、帰ったあとで、もしかしたら美奈は我慢強いから黙ってつきあってくれてるのかもと思ったら、なんだかだんだんそんな風に思えてきて。そうしたら、確かめるのが怖くなって、きのうは起きあがれなくなっちゃって……」
「わたし、琴が風邪気味だって、ママから聞いたのよ」
「頭痛がするってママに言ったら、風邪引いたのねって言われて……」
真由子から剣突を食らわされた琴子のママは、きのうの朝、美奈子と琴子を会わせるのが嫌だったのかもしれない。だから深く追求することなく、迎えに行った美奈子に風邪だから休ませると告げたのだろう。
「我慢してつきあってるなんて、そんな風に思われちゃったのは、わたしも、いえ、わたしが悪かったんだわ。ちゃんと言えばよかった。わたし、本当は琴がどんなでも構わない。髪が長くても短くても、強くなくても、ママの言いなりでも。琴が本当にそれでいいなら、それでいい。だから、わたしが呆れてるとか、離れていくとか、そんな風に思わないで」
柔らかな前髪に覆われた琴子の丸い額に、こつんと額をくっつけて、内緒話をするような小さな声で、美奈子は言い加えた。
「だって、わたし、琴のことが大好きなんだもの」
「美奈……」
見開かれた少女の瞳は不意に揺れ、盛り上がった涙が一筋頬を伝う。それを見た美奈子の胸は、ぎゅっと締めつけられるような、切ないような、不思議な気持ちで満たされる。こんな自分の一言で動揺して涙を流す琴子が可愛くて愛しくて、どうしようもなくて。
ふっくらとあどけないラインを描いた琴子の頬をそっと包み込んで、美奈子は聞いた。
「もしかして、知らなかったの?」
琴子は泣き笑いのような表情で答えた。
「知らなかった。おうちがお隣同士だし、美奈はいつだって面倒見がいいから、放っとけなくて、仕方なくてあたしの面倒見てくれてるんだと思ってた。でも、あたしがあんまりぐずで弱虫だから腹を立ててるんだって。おととい美奈がむっとしてたのはわかったし、帰ったあとで、もしかしたら美奈は我慢強いから黙ってつきあってくれてるのかもと思ったら、なんだかだんだんそんな風に思えてきて。そうしたら、確かめるのが怖くなって、きのうは起きあがれなくなっちゃって……」
「わたし、琴が風邪気味だって、ママから聞いたのよ」
「頭痛がするってママに言ったら、風邪引いたのねって言われて……」
真由子から剣突を食らわされた琴子のママは、きのうの朝、美奈子と琴子を会わせるのが嫌だったのかもしれない。だから深く追求することなく、迎えに行った美奈子に風邪だから休ませると告げたのだろう。