GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
好きだと言ってくれた琴子の言葉を今は信じよう。それに、琴子がもっと大人になって強くなっても、彼女にとってかけがえのない存在でありつづけるための努力ならできる。そんな風に、少しずつ、少しずつ手を取り合って歩いていけたらいい。
静かでひそやかな2人だけの時間を破ったのは、琴子に着せかけた上着のポケットの携帯だった。
琴子はちょっと目を見開いて、けれども案外に落ち着いた仕草でポケットから携帯を取り出すと、美奈子に渡した。
無意識に姉からだと思い、通話ボタンを押しかけた美奈子の手が止まる。自宅の番号ではない。知らないナンバーだ。
一瞬のち、美奈子は我に返ってパタンと携帯を折りたたんだ。
大学の友人かバイト仲間か、相手は当然真由子が電話を携帯していると思っている。いきなり自分が出るのは失礼に当たる。
姉は留守録につなぐ設定にしていなかったらしい。コール音は20秒ほども鳴り続けた。
心配そうな顔になる琴子に、美奈子は、お姉ちゃんの知り合いの誰かからだと思う、と説明した。お姉ちゃんのを借りてきただけだから。
もう6時をとっくにまわっていることを確かめたのち、美奈子は携帯を琴子のポケットに戻した。
それから、もういちど平均台に座るように琴子を促して、もう一度三つ編みをやり直した。今度はシンプルなおさげをさっさと仕上げてしまう。心を落ち着けて、頭の中で考えをまとめてから、美奈子がここに来るまでのいきさつを、手短に説明した。
夕方、琴子のママからの電話があったこと。美容院で別れたきり戻ってこないといって、心配していたこと。そのときに聞かれて、梅宮紀行と名乗る高校生に声を掛けられたことを話してしまったこと。
おとといの晩にも、ちょうど美奈子が琴子の部屋を訪ねている時間に、琴子のママは美奈子に電話をして、梅沢紀行のことを聞き出そうとしていたこと。真由子が機転を聞かせてくれて、美奈子が疲れて寝ていることにしてくれたこと。琴子のママは次の日もう一度電話するから言っていたこと。
翌日そのことを琴子に告げて相談したかったけれども、琴子が学校を休んでいて会えなかったため、相談できなかったこと。
「わたしは、琴子のママになるべく早く、梅宮さんのことを話したほうがいいと思ったの。でも、琴の了解をとる前に勝手にしゃべってしまったことになって、悪かったわ」
静かでひそやかな2人だけの時間を破ったのは、琴子に着せかけた上着のポケットの携帯だった。
琴子はちょっと目を見開いて、けれども案外に落ち着いた仕草でポケットから携帯を取り出すと、美奈子に渡した。
無意識に姉からだと思い、通話ボタンを押しかけた美奈子の手が止まる。自宅の番号ではない。知らないナンバーだ。
一瞬のち、美奈子は我に返ってパタンと携帯を折りたたんだ。
大学の友人かバイト仲間か、相手は当然真由子が電話を携帯していると思っている。いきなり自分が出るのは失礼に当たる。
姉は留守録につなぐ設定にしていなかったらしい。コール音は20秒ほども鳴り続けた。
心配そうな顔になる琴子に、美奈子は、お姉ちゃんの知り合いの誰かからだと思う、と説明した。お姉ちゃんのを借りてきただけだから。
もう6時をとっくにまわっていることを確かめたのち、美奈子は携帯を琴子のポケットに戻した。
それから、もういちど平均台に座るように琴子を促して、もう一度三つ編みをやり直した。今度はシンプルなおさげをさっさと仕上げてしまう。心を落ち着けて、頭の中で考えをまとめてから、美奈子がここに来るまでのいきさつを、手短に説明した。
夕方、琴子のママからの電話があったこと。美容院で別れたきり戻ってこないといって、心配していたこと。そのときに聞かれて、梅宮紀行と名乗る高校生に声を掛けられたことを話してしまったこと。
おとといの晩にも、ちょうど美奈子が琴子の部屋を訪ねている時間に、琴子のママは美奈子に電話をして、梅沢紀行のことを聞き出そうとしていたこと。真由子が機転を聞かせてくれて、美奈子が疲れて寝ていることにしてくれたこと。琴子のママは次の日もう一度電話するから言っていたこと。
翌日そのことを琴子に告げて相談したかったけれども、琴子が学校を休んでいて会えなかったため、相談できなかったこと。
「わたしは、琴子のママになるべく早く、梅宮さんのことを話したほうがいいと思ったの。でも、琴の了解をとる前に勝手にしゃべってしまったことになって、悪かったわ」