GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
それでも琴子のママは、琴子はR医大付属高校に進むべきだと考えていたみたいだったが、今回の進路指導を控えての担任との個人面談で気が変わったらしかった。
「あと半年この成績が維持できれば、お兄ちゃんの通っていたS高に琴子も進学できるって言われたわ」
2日前、2者面談を終えて学校から帰ってきたママは、琴子が何も言わないうちにそう切り出した。
「R医大のほかにも大学はたくさんあるでしょ。S高なら県内でもトップレベルだし、頑張れば東京の大学に進むことだってできるもの」
その話を聞いた美奈子は、ホッと胸をなでおろした。進路を県立の高校に変更することについての最大のハードルは母親だと、内心密かに考えていたのだ。ママが反対すると、琴子が不安定になる。パパは琴子の受験の問題にはまるで関心がない。どうでもいいと考えている様子だったから、琴子に味方してくれる可能性は少なかった。
「ミーナ」
傾きかけた陽光に金色に染まるグラウンドを見るともなく眺めていたら、不意に真横で声がした。びっくりして振り向く美奈子のすぐ横から、柔らかそうな髪をおさげにした少女が首を傾げて覗きこんできていた。
「待った?」
驚いた様子の美奈子が可笑しかったのか、少女はうふふと笑った。
「美奈ったら、ぼんやりしてあたしが近づくのに気づかないんだもの」
2年半前、美奈子のようになるんだといって伸ばし始めた琴子の髪は、ふわふわのくせっ毛だったから、ポニーテールだと広がり過ぎる。だから学校に通うときは大抵大人しめのおさげ髪に結わえている。茶色がかったその髪を肩のあたりで揺らせながら笑う少女の表情は、中学入学当時のあの日々と比べてずいぶん明るい。
斜めから差す光に琥珀色に染まった琴子の目の明るい虹彩を見返しながら、美奈子はいつものように静かに願う。このまま、何事もなく日々が過ぎていくようにと。
「面接、どうだった?」
「うん。この調子で頑張れって」
美奈子の質問に、琴子は屈託のない調子でそう答えた。
「大学進学についての話もしたの?」
「した」
琴子は担任から言われた言葉をそのまま美奈子の前で繰り返した。
「あと半年この成績が維持できれば、お兄ちゃんの通っていたS高に琴子も進学できるって言われたわ」
2日前、2者面談を終えて学校から帰ってきたママは、琴子が何も言わないうちにそう切り出した。
「R医大のほかにも大学はたくさんあるでしょ。S高なら県内でもトップレベルだし、頑張れば東京の大学に進むことだってできるもの」
その話を聞いた美奈子は、ホッと胸をなでおろした。進路を県立の高校に変更することについての最大のハードルは母親だと、内心密かに考えていたのだ。ママが反対すると、琴子が不安定になる。パパは琴子の受験の問題にはまるで関心がない。どうでもいいと考えている様子だったから、琴子に味方してくれる可能性は少なかった。
「ミーナ」
傾きかけた陽光に金色に染まるグラウンドを見るともなく眺めていたら、不意に真横で声がした。びっくりして振り向く美奈子のすぐ横から、柔らかそうな髪をおさげにした少女が首を傾げて覗きこんできていた。
「待った?」
驚いた様子の美奈子が可笑しかったのか、少女はうふふと笑った。
「美奈ったら、ぼんやりしてあたしが近づくのに気づかないんだもの」
2年半前、美奈子のようになるんだといって伸ばし始めた琴子の髪は、ふわふわのくせっ毛だったから、ポニーテールだと広がり過ぎる。だから学校に通うときは大抵大人しめのおさげ髪に結わえている。茶色がかったその髪を肩のあたりで揺らせながら笑う少女の表情は、中学入学当時のあの日々と比べてずいぶん明るい。
斜めから差す光に琥珀色に染まった琴子の目の明るい虹彩を見返しながら、美奈子はいつものように静かに願う。このまま、何事もなく日々が過ぎていくようにと。
「面接、どうだった?」
「うん。この調子で頑張れって」
美奈子の質問に、琴子は屈託のない調子でそう答えた。
「大学進学についての話もしたの?」
「した」
琴子は担任から言われた言葉をそのまま美奈子の前で繰り返した。