GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
今の琴子が、少し離れた位置からママを見ることが出来ているらしいのが、美奈子は嬉しい。兄の知明が家出して、パパとママが喧嘩して、それでも琴子がさほど不安定になっていないのが嬉しい。
美奈がいるから大丈夫。土曜日の晩、琴子はそういって家に帰っていった。ね、ほんとに大丈夫だったでしょ? 口には出さなかったけれども、琴子がそう言っているように美奈子には思えた。
振り返って琴子はにこりと笑った。
「あたし、今度梅宮さんに会ったら、もう少しちゃんと話ができるかもしれない」
「あんなにヤなやつでも?」
「梅宮さん、パパに似てるよ。真っ直ぐものを言わないとことか」
「ひねくれた言い方しかしないとこ?」
「うん。むしろお兄ちゃんよりパパ似だと思う」
「あのね、琴」
話題が梅宮紀行から離れていかないうちにと、美奈子は急いで言った。
「その梅宮さんと会ったよ。おとといの晩、琴が家に帰ったあと」
「え?」
目を真ん丸くして振り返った琴子に、美奈子は慌てて言葉を継いだ。
「琴のお兄さんの、知明さんも一緒だったの。小学校のグラウンドで、何度か電話がかかってきてたでしょ。あれ、お兄さんの知明さんからだったんだ」
「お兄ちゃんが、美奈のお姉さんに電話してたの? どうして?」
「琴がいなくなったこと、梅宮さんがお兄さんに連絡したらしいの」
「梅宮さんがお兄ちゃんに連絡???」
頭の中がクエスチョンマークで一杯の様子の琴子に、美奈子はわかるようにゆっくりと説明した。
学校で琴を呼びとめて話しかけた高校生が梅宮さんのことだって、わたしが琴のママに電話で話したことは言ったよね。
それで、わたしとの電話を切ってすぐ、琴のママは梅宮さんのところに問い合わせの連絡を入れたんだって。
連絡を受けた梅宮さんはすぐにお兄さんに連絡を入れた。琴が行方不明になって、家族の人が捜しているって。こちらに来ていないかって聞かれたけれども、心当たりはない。ひょっとしてお兄さんだったら、心当たりがあるんじゃないかって。
「お兄ちゃんと梅宮さん、連絡を取り合っていたの?」
なおもよくわからないといった表情で、琴子は聞き返した。
「そうみたいね」
美奈子は頷いた。