GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
 確かに、女子は高校生になってから成績が伸び悩むケースがある。けれども、県内あるいは都の国立大学の医学部を目指すのならば、S高の方が受験体制はずっと整っていること。R医大だけを目標にするのであれば、付属高校からは別枠で進学できて有利だが、他の大学の医学部に行こうと考えたときにはかえって不利になること。

 それよりもS高に進んで、第一志望を国立、すべり止めをR医大という形で進めていけば、無駄も回り道もしないで済む。 2者面談でも同じ話をしたから、もうお母さんから聞いているかもしれないが。担任はそう前置きしたあと、説明してくれたのだった。


「美奈は?」
「わたし? わたしは万事オッケーよ」

 琴子の質問に、美奈子はさらりとそう答える。
 担任に入学金免除の話を持ちかけられたことは言わない。もとより美奈子の選択肢にはないからだ。

 一度外履きになって校舎を出てしまうと、図書館に引き返すのも億劫なので、きょうはこのまま下校することにした。真面目に教科書を詰め込んだ重い学生鞄を手に、2人は中庭を横切って正門へ向かう。

 門の外に見知らぬ少年が立っていた。どうやら高校生のようだ。ネイビーブルーのブレザーに深紅のネクタイ。S高校の制服だ。写真のようなものを片手に、下校して行く生徒を1人1人チェックしている。

 他の生徒と同じように、美奈子と琴子もその高校生の脇をすり抜けようとした。が、琴子を見た高校生は、突然2人の進路をふさぐように前に飛び出してきて言った。

「琴子ちゃんだよね。ちょっといいかな。話があるんだけど」

 内気な少女はとっさに美奈子の陰に隠れた。
 美奈子は琴子を庇うようにして、少年に聞き返した。

「あなた誰? 何の用?」

 彼はけげんそうな顔で、美奈子を見た。

「用があるのは琴子ちゃんにで、君には関係ない」

 美奈子は振り向いて、琴子に聞いた。

「知り合い?」

 琴子は目を見開いて大きくかぶりを振った。

「行きましょ」

 美奈子は琴子の手をつかんで引っ張りながら、歩き出した。知り合いでなければ話を聞く義理はない。まして、校門で待ち伏せしているような相手だ。悪くすればナンパの一種だ。
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