GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
「あのとき梅宮さん、柿崎くんの名前を借りたそうだけど、次の日に、学校で柿崎くん、言ってたわ。夜、突然琴子のママから電話があって、なんだろうと思いながら出たら、間違いでしたって言われて切られたって」
「へえ」

 梅宮は、ちらりと知明の方に目をやり、美奈子に向かって言った。

「なるほどね、用心深いおばさんだ」
「あなた、用件を琴子のママに聞かれて、うやむやにしたまま切っちゃったでしょ? だから、琴子のママ、柿崎くんのうちに掛けなおして、もう一度電話の内容を問い質そうとしたのよ。そうしたら柿崎直人の声はあなたとは別人だった。じゃ、さっきのは誰からの電話だったのってことになって、その件で琴子はずいぶん追及されたの」

 いつのまにか真由子と蓮村大介も話をやめて、こちらを見ていた。
 みんなの視線が一斉に集中したのが気まずくて、美奈子は言葉をとぎらせた。

「美奈子さん」

 知明が口を開いた。

「ひょっとして琴子が家出したのは、そのことで琴子とおふくろの間に何かあったからなのか?」

 どう返答するべきだろう。知明を見返しながら、美奈子はいそいで考えをまとめようとする。ママに責められても琴子は、梅宮紀行の名前を出すことができなかった。なぜならその名前は桜井家の秘密だったからだ。
 そして、桜井家では秘密の存在だった当人が目の前にいて、知明や真由子とともに、美奈子の話に耳を傾けている。微妙にややこしいこの状況で、さしさわりのない言葉でうまく説明できる自信がない。

 美奈子の戸惑いを察したのか、知明は質問を置き去りにしたまま、再び梅宮に話しかける。

「おふくろが電話を琴子に取り次がなかったのは、おまえの声に疑いを持ったからじゃない。たとえ本物のクラスメートでも、おふくろは男からの電話は琴子に取り次がない。それから電話した理由と用件は必ず問い詰める。納得できる詳しい説明を相手から聞き出すまで」

 今まで黙っていた蓮村が、知明の後ろから口をはさんだ。

「相変わらずだな、おまえのおふくろさん。いまやターゲットはおまえから琴子ちゃんに移ったってわけか」
「そういうことだ」

 知明は頷いた。
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