GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
 ウェイターが飲み物だけを先に持ってきて、後から来た3人の前に置いた。
 それを期に、知明と真由子と蓮村の3人は、紀行と美奈子に聞かせるともなく高校時代の話をはじめた。

 真由子と蓮村は3年間、知明と同じS高校に通った。蓮村は選択科目の関係もあって、ずっと知明と同じクラスだった。その中で、真由子も蓮村も、知明の母親には不愉快な目に遭わされた経験が、1度や2度ならずあるということだった。

 電話はとにかく、絶対取り次いでもらえない。そればかりでなく、名前をフルネームで聞かれる。知明にどういった用事があるのか、それはクラスの用件なのか、クラブの用件なのか、委員会の用件なのか、根掘り葉掘り聞かれる。

「特におれは、初対面で桜井のおふくろさんに喧嘩を売ったせいもあって、電話するたびに露骨に嫌がられてたよな」

 ぼやくように、蓮村は言った。

「2年のとき、2人とも文化祭の実行委員だったから、秋頃打ち合わせのためにちょくちょく桜井んちに連絡をしたんだけど、とにかく取り次いでくれないから話もできない。詳しい話をしようにも、おふくろさんを介してだからもともとうまく通じないところに持ってきて、あのひと、おれにむちゃくちゃ反感持ってるものだから、必要なことがまともに伝わらない。まったく苦労したよなあ……」
「へえ、蓮村さん、初対面であのひとに喧嘩を売ったんですか」

 意外そうに、梅宮は蓮村を見る。

「温厚そうに見えるのに、人は見かけによらないな。それとも温厚な蓮村さんを怒らせるようなことがあったのかな。一体何があったんですか?」

 梅宮の言葉に、蓮村大介は困った顔になって頭をかいた。本当に人のよさそうな人だ。
 高校のころ、知明とつきあっていた少女が堕胎したあと付き添って行った、少女の友達の家で、蓮村は知明の母親と出くわした。傷ついた少女を悪し様にののしる彼女にあきれ、見るに見かねて口を出した。蓮村の初対面は、多分そのときのことだ。

「蓮村くんって、見かけほど温和じゃないわよね」

 蓮村が口を開くより早く、真由子が何気ない顔で、梅宮の質問をさらりとはぐらかした。

「実は気が短い方だと思うの。白黒はっきりさせたがる性格だし。でも、味方には甘い。頼られると弱いのよね。いわゆるアニキ肌ってやつかな?」
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