GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
 真由子は梅宮に言葉をさしはさむ隙を与えず、そのまま話題を現在のことに転換した。

「桜井のおばさんだけど、今は琴子ちゃんに対して、高校のときの桜井くんに対してみたいに執着してるわよね。出かける先なんかもいちいちチェック入れてるみたいだし、クラスメートからの電話もほぼ取り次がないみたいだし。なのに、美奈子に対しては例外みたいなの。美奈子からの電話はおよそフリーパスで琴子ちゃんにつないでもらってるみたい。美奈子は、どうしてだかおばさんに気に入られているみたいなのよ。一体この子のどこが気に入られたんだか……もともとやんちゃで破天荒なところのあった子で、こっちはずっとハラハラさせられてきたのに。最近は大分落ち着いてきたみたいだけどもね」
「お姉ちゃん、ひど」

 話題を転換するためとはいえ、自分が肴にされてはたまらない。美奈子は腕組みをして姉を睨みつけたが、姉はそ知らぬ顔で話を続けた。

「公園のブランコの上の柱を平均台代わりにして歩いたとか、家の屋根に梯子を持ち出して、2階の屋根によじ登ったとか、そのテの武勇伝には事欠かなったわ。特に琴子ちゃんたちが引っ越してくる前の年ぐらいまではね」

 口を尖らせた美奈子の視線を今度はにっこり笑って受け止めると、真由子は言い加えた。

「てっきり体育系に進むとばかり思っていたのに、医者になるですってよ。ま、体力だけはあるから向いているかもね」
「美奈子さんは格別優秀だと、おれは聞いたな」

 だれに聞いた話なのか、知明が言った。

「小学校のときの予備校の模試で、全国総合順位で1ケタになったことがあっただろう。今でも全国でトップレベルだそうだ。美奈子さんとつきあいだしてからの琴子は、ずいぶんと成績を上げたみたいだ。だからおふくろは美奈子さんに一目置いているんだ」
「へえ……」

 知明の言葉に、梅宮が口笛を吹く。

「天は二物を与えずっていうけれど、それだけ可愛くて頭もいいなんて、神様もイキな真似をするね。成績がよくて医者志望で、義理の兄でさえなかったら、案外おれもおばさんに気に入られることもできたかな。まあ、おれはおれで、ライバルが美奈子ちゃんでなかったことに感謝しておこうか」
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