GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
「休日は塾通いにつぶれ、つきあっていい友人も成績だの住んでいる場所だの親の職業だのでおふくろに選別され、行き先も持物もすべてチェックされる。クラスメイトから遊園地などへの誘いの電話がきても、おふくろが勝手に断ってしまう。だが、そんな生活が続いても、たとえ何があっても琴子は黙っておふくろに従っているだけだ。むろん、おふくろには何を言っても無駄だとあきらめているっていうのもあるだろう。あいつはうんとガキの頃、おふくろとおれの不毛な言い争いをさんざん見てきている。諍いを避けようとするのも仕方がないのかもしれない。だが、このまま一生何も自分で決めず、何も考えず、善悪の判断すらしようとせず、おふくろの敷いたレールの上を走って行くだけでいいはずがない。しかし、おれがそう言って、このままずっとおふくろの言いなりで過ごすつもりかと聞いても、ただ、戸惑った呆けた顔でおれを見返すばかりで、おれの言葉はさっぱり届かない。おれは妹に必要とされている感じがまったくしない──いや、しなかったんだ」
琴子はあきらめているわけではない。ただ、ずっとずっと、ママに片思いしているだけだ。ママの望みを叶える約束と引き換えに、これまでずっと相手にされなかったママに構ってもらうようになって、だけどそれで本当に琴子のことを認めてもらったわけじゃないことを心の奥で感じつづけて。
美奈子は知明の顔を見返しながら、声には出さずに胸のうちでそうつぶやいた。強烈な自我を持った琴子の兄。すでに大人で、父親のことも母親のことも必要ないと割りきってしまった兄に、琴子の思いが、祈るような思いがわかるだろうか。知明には、かつてそうだった時期はなかったのだろうか。ママに振り向いてもらいたくて、誉めてもらいたくて、必死で期待に応えようとして、振りまわされてへとへとになって……。
「おばさんが大概無茶な性格だっていうのはわかったけど……」
返す言葉を捜しながら知明を見返した美奈子の横で、梅宮がおもむろに口を開いた。
「桜井さん、素朴な疑問なんだけど、子供が親に認めてもらいたいって思うのは、そんなに変なことかな?」
梅宮は一端言葉を切って、知明のいらえを待ったが、知明は無言で続きを促した。
琴子はあきらめているわけではない。ただ、ずっとずっと、ママに片思いしているだけだ。ママの望みを叶える約束と引き換えに、これまでずっと相手にされなかったママに構ってもらうようになって、だけどそれで本当に琴子のことを認めてもらったわけじゃないことを心の奥で感じつづけて。
美奈子は知明の顔を見返しながら、声には出さずに胸のうちでそうつぶやいた。強烈な自我を持った琴子の兄。すでに大人で、父親のことも母親のことも必要ないと割りきってしまった兄に、琴子の思いが、祈るような思いがわかるだろうか。知明には、かつてそうだった時期はなかったのだろうか。ママに振り向いてもらいたくて、誉めてもらいたくて、必死で期待に応えようとして、振りまわされてへとへとになって……。
「おばさんが大概無茶な性格だっていうのはわかったけど……」
返す言葉を捜しながら知明を見返した美奈子の横で、梅宮がおもむろに口を開いた。
「桜井さん、素朴な疑問なんだけど、子供が親に認めてもらいたいって思うのは、そんなに変なことかな?」
梅宮は一端言葉を切って、知明のいらえを待ったが、知明は無言で続きを促した。