GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
中学に進学してから気づいたことだが、琴子は意外なぐらい男の子にもてる。きついところのないやさしい面差しとおっとりとしたものやわらかな仕草が男子に受けるらしかった。
美奈子は女の子たちからは美人だと言われる。けれどもサバサバしていて男子ともぽんぽん軽口をたたく美奈子は琴子とは反対に、あまり異性として意識されたことはない。
琴子自身は男の子と口をきくのが苦手だ。男の兄弟がいるにもかかわらず。だから、こういうシーンに出くわすと、知らず美奈子は琴子をかばって間に割って入る。
正門をくぐって外に出た時点で、体育館に阻まれて職員室からは死角だ。すぐに先生が気づいて掛けつけてくることは期待できない。さっさと逃げ出してしまうに限る。
「待てよ」
高校生は追いかけてきて言った。
「おれは梅宮紀行。聞いたことあるだろ、名前ぐらい」
琴子の足がぴたりと止まる。ゆっくりと振り返る琴子の様子を見て取って、梅宮と名乗った少年はしてやったりという笑みを浮かべた。
美奈子は改めて、目の前の高校生をまじまじと見返した。背はあまり高くない。中背中肉ぐらいだったが、しっかりとした骨格をしていて、それが中学生とは一線を画している。大人びた表情をしていたが、やや大きめの制服はもっと身体が大きくなることを見越してあつらえたものだろうことからして、恐らくまだ1年生。
特徴のあるのは茶色っぽい明るい髪の色。ブリーチしたわけでもない天然のままのその色は、なぜか琴子の髪に似ている。そしてその目許にも、なんとなく見覚えがあるような気がする。
「聞いたことあるよね、琴子ちゃん」
そう繰り返した少年に、琴子はおずおずと聞き返した。
「S高へ行ってるんですか」
「そう。1年生。親父に期待されてるから、おれ」
少年の唇が笑いの形につりあがる。けれども目は笑っていない。