GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
「あのひとが傍迷惑な存在だというのは、ここで話を聞いただけでもわかるし、さっき電話で聞かされた罵詈雑言からも察しがつきます。トラブルを避けるために琴子があのひとの言いなりになっている。そこまではいい。桜井さんにもそういった時期があったってことですしね。でも、琴子ちゃんにとってはそれだけではないっていうことでしょう。そんな母親にでも喜んでもらえれば単純に嬉しい。琴子ちゃんが素直な子だっていうことだ。お兄さんにはそれがよくわからないみたいだから、薄情だって言ったんですよ」
「梅宮くん、それは違うんじゃないか?」

 蓮村が口を開きかけたが、覆いかぶさるように同時に真由子が言った。

「あのねー少年、誤解があるようだから言っておくけど、異論があるのは桜井くんが薄情だのなんだのって部分じゃなくてね、琴子ちゃんにとって自分の将来を親が喜ぶかどうかで決めることがいいことかどうかってことなんだからね。桜井くんが家を出ることになったのは紆余曲折あってだし、事情を知らないあなたが何を言ったところでわたしたちには全然説得力なんかないんだけど、それは別にいいの」

 真由子の言葉に、梅宮は、ふんと鼻で笑った。

「いいか悪いかなんて、それこそ琴子が決めることなんじゃないですか。少なくとも何も関係のないあなたがとやかくいう問題じゃないと思いますがね」
「ええ、もちろん最終的には外野がどうであれ、琴子ちゃんが決めることだっていうのは、わたしたちだってわかり過ぎるほどわかっていますとも。だけど、やっぱりあなたは桜井のおばさんのことを知らないんだとしか、わたしには思えない。それと、琴子ちゃんの問題にくちばしを突っ込みたがっているのは何の関係もないわたしではなくて、当事者の1人である桜井くんだってことをお忘れなく」
「もう、なんだろうこの人は」

 せせら笑いを浮かべたまま、梅宮は言った。

「だから、お兄さんはお呼びじゃないでしょうってさっきから言っているんじゃないですか。本当に物分かりの悪い人だな」

 真由子は知明に向かって顔をしかめて見せた。

「桜井くん、あなたの弟って、滅茶苦茶感じ悪くない?」

 知明はそれには答えず、表情も変えずにそっけない口調で言った。

「とりあえず菊本も紀行も、美奈子さんとおれに話をさせてくれ」

 にやにや笑いの梅宮を一瞥し、真由子は1つ溜息をついて黙る。
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