GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
「片方がもう片方により多く搾取され利用される偏った関係でも、お互いが納得しているのならどうしようもない部分というのは、確かにあるだろうと思うよ。親と子の一対一の関係のうちはそれもまだいい。問題は、子供の世界が広がって、親以外に大切な人間ができた時だ。自分だけならともかく、そいつも親の要求に無条件で従わせるのか? 従わないといって、そいつを切り捨てるのか? 少なくともおふくろの方はそれを要求してくる。そして、自分の要求を飲まない人間を切り捨てるように琴子に強要するだろう。美奈子さんは知っているかもしれないが、桜井の母はそういったタイプの人間だ」
美奈子は静かに頷いた。
「ええ、わかります」
「琴子のことを、気をつけてやっていてくれないか」
美奈子はもう一度、今度は黙って頷くと、渡されたメモを半分に折ってポケットにしまい込んだ。あとで定期入れの中にでもはさんでおこう。
このメモが役に立つときが来るかどうかは、正直わからない。琴子に対する知明の兄としての思いと、琴子から見た兄に対する距離感にはかなりのズレがある。威圧的な父親に気後れしているのと同じように、琴子は兄に対してもずいぶん気後れしているのだから。
でも、それに関しては知明の方に責任があると、美奈子は思う。たわいのない話をしたり冗談を言って笑い合ったりの全くない兄にいきなり正論を聞かされても、高いところから見下ろされているようにしか感じられない。琴子は説教されているように感じて萎縮する他ないではないか。
「桜井くん……」
ややあって、真由子が口を開いた。
「あなたには悪いけど、本音をいえばわたしとしては美奈子には、できれば桜井のおうちとのつき合いは一切およしなさいって言いたいところなのよ。それと、そういう話はやっぱり美奈子を通してではなく、琴子ちゃんに直接言わなきゃ駄目なんじゃないかしら。それも回りくどい抽象的な話じゃなくて、ちゃんと忠告すればいいのに。今後おばさんに対する琴子ちゃんの態度いかんで、琴子ちゃんの周囲の人間がどんなとばっちりを受けるかわからないんだよって。興信所にあとをつけられるかもしれないし、盗撮されてるかもしれないし、他にもどんな目に遭うかわからないから気をつけろって」
「菊本は相変わらずはっきりものを言う」
知明はむしろ楽しげに笑うと、そう感想を漏らした。
美奈子は静かに頷いた。
「ええ、わかります」
「琴子のことを、気をつけてやっていてくれないか」
美奈子はもう一度、今度は黙って頷くと、渡されたメモを半分に折ってポケットにしまい込んだ。あとで定期入れの中にでもはさんでおこう。
このメモが役に立つときが来るかどうかは、正直わからない。琴子に対する知明の兄としての思いと、琴子から見た兄に対する距離感にはかなりのズレがある。威圧的な父親に気後れしているのと同じように、琴子は兄に対してもずいぶん気後れしているのだから。
でも、それに関しては知明の方に責任があると、美奈子は思う。たわいのない話をしたり冗談を言って笑い合ったりの全くない兄にいきなり正論を聞かされても、高いところから見下ろされているようにしか感じられない。琴子は説教されているように感じて萎縮する他ないではないか。
「桜井くん……」
ややあって、真由子が口を開いた。
「あなたには悪いけど、本音をいえばわたしとしては美奈子には、できれば桜井のおうちとのつき合いは一切およしなさいって言いたいところなのよ。それと、そういう話はやっぱり美奈子を通してではなく、琴子ちゃんに直接言わなきゃ駄目なんじゃないかしら。それも回りくどい抽象的な話じゃなくて、ちゃんと忠告すればいいのに。今後おばさんに対する琴子ちゃんの態度いかんで、琴子ちゃんの周囲の人間がどんなとばっちりを受けるかわからないんだよって。興信所にあとをつけられるかもしれないし、盗撮されてるかもしれないし、他にもどんな目に遭うかわからないから気をつけろって」
「菊本は相変わらずはっきりものを言う」
知明はむしろ楽しげに笑うと、そう感想を漏らした。