GOING UNDER(ゴーイングアンダー)

 あら、途中経過で報告して気を揉ませるのが嫌だっただけじゃないの? 桜井くんらしいじゃないの。

 ぶつくさこぼす蓮村をなだめるように真由子がそう言った。

 ああ、おれも別に話を聞いたとかじゃないんですよ。ただ、偶然彼女連れてるところに出くわしたことがあるだけで。優しそうな可愛らしい感じの人ですよね。ところで真由子さん、さっき興信所だとか盗撮だとか言ってましたけど、桜井さんが高校の頃、一体何があったんですか?




「ほんとはお兄さん、琴にその話をしたかったんじゃないかと思うの」

 考えながら、美奈子は口に出した。

「高校の頃好きな人が出来て、その人とつき合いはじめたら、琴のママ、興信所──探偵をやとってその人のことこっそり調べてたんですって」
「探偵?」
「ええ。お金をもらって、いろいろ調べたりする仕事の人。それでその女の子、別の男の人とつき合ってるみたいな写真撮られてね、琴のママ、その写真をお兄さんに見せたの。それでママはお兄さんに言ったんだって。こんないいかげんな子がこれ以上お兄さんの周りをうろつくんだったら、その写真を持って彼女の家の人に直に話をつけに行ってくるからって」

 こうなったら相手の両親に直接会って写真を見せるしかないわね。おたくのふしだらな娘がうちの息子をたぶらかしているからなんとかしてくださいって文句を言うことにするわ。彼女と別れる気はないって答えた桜井に、おふくろさんはそう言ったらしいよ。
 蓮村が口真似をした琴子のママの毒々しい言葉を、琴子に対して繰り返して言って見せる気は美奈子には起きなかった。

「琴のママって、なんていうかすごい行動的でしょ。お兄さんが止めなければ本当にそうしてたと思うって、蓮村さんは言っていたわ。だからお兄さん、心配してるみたいなの。いずれ琴の身にも、同じような災難がふりかかるんじゃないかって」

 ママがこっそり調べたり写真を撮ったりしていたのがわかったとき、そこまでのいきさつを彼女に説明するのではなく、何も言わずに黙って別れることを知明は選択した。

 そういえば、そのことについても蓮村はぶつぶつ文句を言っていた。

 桜井ちゃんもさっさと彼女に打ち明けて相談すればよかったんだ。女の子をお飾りかマスコットぐらいに思ってて、相談して一緒に考えようって発想がないからややこしいことになってしまったんだよ。
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