フライング
Kiss …
「ジン、グルベ〜ル、ジン、グルベ〜ル……」
前を歩くヤスくんが、微妙な音程でクリスマスソングを口ずさむ。
私がクスクス笑うと、私の隣を歩いていた彼も、
「相変わらずヘタだな」
と言って口元を緩めた。
「きゃはははは〜。ジン、グルベ〜ルだってぇ。へったくそー」
ヤスくんの腕にしがみつくようにして歩いていたミサトが、周囲の冷ややかな視線なんてお構いなしに歌い出す。
「ジングルベ〜ル、ジングルベ〜ル、だよ。
わかった?はい、歌ってみて」
「えー?ジン…、ジン…?ジングル、べ〜ル?」
「ちがーう!ジングルベ〜ル!『ジン』の音がちがうの」
思わず隣の彼と顔を見合わせる。
「ふたりとも、けっこう飲んでたの。
大丈夫かな」
「一緒に歌え、とか言われるかもよ?」
「えー…。それはイヤかも」
私の言葉にフッと目を細めた彼が、
「じゃあ、他人のフリしとこ」
そう言って私の肩を抱いた。
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