フライング
歩くスピードがゆっくりになると、ヤスくんたちとの間に少しずつ距離ができていった。
歌うことに夢中になっているふたりは、もちろんそのことに気づいていない。
「ははは。おもしれー」
前方を指さして、子どもみたいに笑う彼。
私の肩においていた手をどけると、
「そういえば。ガキのころ、あの歌聴くといちいち反応しちゃってたんだよね」
そう言って、ハァーッと息を吹きかけたその手をコートのポケットに滑り込ませた。
「えーっ?……あ。もしかして、『ジン』ってところ?」
私の言葉にウンウンと頷いた彼が、
「そうそう。バカみたい、だろ?」
と言って肩をすくめた。