STEP UP
「…」

きゅっと眉間を寄せてそっと自分の足元へとやる彼の視線と同じように下を向く。

厚みのある辞書の上に置かれた彼の足。
2冊ほどの厚みは多分10センチ以上。

「やっぱり、ダメだよね」

小さく発した言葉と一緒に、いつもなら感じることのない肩の上に彼の熱を受け止める。
ほほにあたる髪がやさしく揺れた。

「何かあった?」

気弱な彼の姿に胸が痛む。

「壁ドン」
「壁ドン??」

最近はやっているその言葉が彼のうちから突然出てきて、復唱してしまった。
肩に額をそっとのせて、小さな声で彼が語りだす。

「15㎝の身長差が一番理想的って言うから」
「うん」
「先輩にしてあげたくって」
「うん」
「俺…」

普段強気なのに、何かの拍子にと出てくる気弱な一面。
それはいつも私に関係していて、そのことにうれしさを感じる半面で、『どうして』という思いが胸を痛くさせる。

「制服を着ている先輩にこうしたかった」
「うん」

同じ学校の制服を着られるのは、あと数か月。
先に学校からいなくなるのは私のほうで、お互いの姿が毎日見ることのできない時間が近づいている。
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