STEP UP
「制服…。とっておくから」
「はぁ?」
「だから、制服とっておくから、いつかもう一回してね」
『いつか先輩を見下ろすから、待っていて!!』
ずいぶん前にそういっていた彼が思い出されて、つい言ってしまった。
今と同じぐらいの身長をした彼にもう一度『壁ドン』をしてほしいって思いを込めて。
その言葉に一瞬戸惑って、小さく息をのんだ彼ののどが揺れる。
いつもとは違う位置。
今までみたことのない表情。
私の言ったことを理解したのか、嬉しそうに笑うと少しかがむように唇を耳に寄せた。
「結 好き」
上から降るように私の大好きな声が鼓膜を揺らして、ギュッと抱きしめられる。
少しだけ心臓に近い場所に耳が当たれば、早い鼓動が伝わってきた。
いつも先輩って呼ぶ彼が、私のことを名前で呼ぶのは甘い時間の始まりの合図。
「でも、できるだけ早めの2度目をお願いします」
高校を卒業して着る制服はとても恥ずかしい。
それが大好きな彼の前でも。
「任せなさい。成長期男子をなめるなよ」
そういっていつものように自信満々の彼の顔がゆっくりと近づいて、唇が重なった。
いつもと違う角度と背中にあたる壁の感触が一瞬で熱を高めて、彼から伝わる自分とは違う熱と混ざり合う。
お互いの『大好き』という心地よい熱がいつまでも続くように、
近い未来の姿を思い描きながら。
fin