10回目のキスの仕方

優しい手

* * *

「ん…あ…朝…?」

 差し込む光に目を開ける。鈍く痛むのは頭だけじゃない。

「…った…頭…痛い…。」

 ズキズキする頭を押さえて、ゆっくり立ち上がる。鏡を見ると頭はボサボサで服はぐしゃぐしゃだ。しかし、顔に施したはずの化粧は落ちている。

「…お風呂、入ってない…と、思ったんだけど…。」

 ゆっくりと昨日の記憶を手繰り寄せる。昨日、自分は一体どこで寝てしまったのか。少なくとも、靴を脱いで化粧を落とし、ベッドに入って眠った記憶はどこにもない。

(…歓迎会に行って、…多分、間違って…お酒を飲んだ?)

 おそらくはそういうことなのだろう。そして、男に押さえつけられて、そこで…。

「…かすったんだ…。それで、私…。」

 それが嫌だと言って子どものように泣いたような気がする。目が重い感じがするのは多分気のせいではない。

「あ!105号室!」

 助けてくれた人がいた。手を引いて、ここまで連れてきてくれた人が。美海は慌てて髪を整えた。この際、すっぴんであることはもういい。やや気だるい身体を奮い立たせて、玄関のドアを開けた。

「…あ、起きてた。」
「っ…!」

 目の前には昨日の人であり、そして…

「図書館で…本、取ってくれた…!」
「あー思い出してくれたんだ。昨日結構酔ってたし、膝も怪我してたから気になって、これ。」

 差し出されたのは白いビニール袋。少し躊躇するが、ゆっくりと受け取って中を見るとタッパーウェアが1つとヨーグルトが入っている。

「あの、これは…。」
「アロエヨーグルトと、梅ドレッシングのサラダ。どっちもさっぱりしてるから食べれると思うけど。」
「いやでも、…なんでっ…。」
「二日酔いにはこれが効くから。」
「えっと…あの、そうじゃなくてっ…。」
「…?なに?」

 頭が混乱する。目の前に図書館で助けてくれた彼がいる。その彼が昨日助けてくれた人と同じだなんて。
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