10回目のキスの仕方
* * *
遠回りしたとしても、やっぱり手を伸ばしたいと思ったのは自分で、そして今、震える肩ごと抱きしめていると手を伸ばしてよかったと思えるのだから、終わり良ければ総て良しということわざは的を射ていると言わざるを得ない。
「…そっか、ありがとう。」
腕の中にいる美海が顔を上げれないままに頷いた。その仕草に愛しさが込み上げる。壊れてしまわないように抱きしめる腕に加減をするのが難しい。どうにか震えが収まるようにしてあげたいという気持ちはあっても、何をすればいいのかはわからない。でも、今はこれでいい気もした。正確に返事がもらえたとは言えないかもしれない。しかし、美海の精一杯がこれだ。だとすればその姿に寄り添うことを許されたことを素直に喜んでいたい。すぐ傍で。
「…勇気をくれたのは、浅井さんです。」
腕の中の美海がゆっくりと顔を上げた。
「…曖昧な返事で…すみません。」
「ううん。でもこれで、彼氏面してもいいってことかな?」
「…か、かかかっ…彼氏…なんて…おそれ多いです…。」
「じゃあ…何だろう?俺って松下さんの何?」
「……。」
黙って悩んでいる姿すら可愛いと思えてしまうのだからもう相当頭もいかれている。
「…彼氏として、立たせて。松下さんにまだそんな気はなくても。ひとまず嫌いじゃないなら。」
「…嫌いじゃ…ありません。」
「それ以上を言えないのは、わかったから。だから今はその言葉で、勝手に俺を好きだと思うから。」
涙目のまま、無理に笑顔を作ろうとしているのは見ればすぐにわかった。そんな姿すら愛しく思えて仕方がない。その気持ちが抑えられなくなって、圭介はもう一度その身体を強く抱きしめた。そして、頭頂部に小さく唇を落とした。
「浅井…さん…っ!?」
「ものすごく妥協してここだから。」
「へっ…?」
みるみるうちに真っ赤に染まる頬に、耳。嫌じゃないと打ち明けてくれたときよりもずっと赤いその頬に口付けたら、きっと彼女は倒れてしまうだろう。今日、そんなことをしてしまうことはできない。まだ彼女のそこに触れていいときではない。
「び…びっくり…しました…。」
「うん。顔が真っ赤。」
まだ、彼女の想いの淵に触れてもいないのだろう。なぜ好きだと告げるのがそんなにも怖いのか、それを聞くには早い気がした。
「…でも…やっぱり…。」
「ん?」
「…浅井さんの近くは…安心します。浅井さんが…優しいからですね。」
『ドキドキして苦しくもありますが』と付け足された言葉に自然と口元が緩む自分を感じた。
「…優しくないよ。優しくしたい人以外には。」
「…そんなことないですよ。」
やっぱり彼女は頑固者だ。
遠回りしたとしても、やっぱり手を伸ばしたいと思ったのは自分で、そして今、震える肩ごと抱きしめていると手を伸ばしてよかったと思えるのだから、終わり良ければ総て良しということわざは的を射ていると言わざるを得ない。
「…そっか、ありがとう。」
腕の中にいる美海が顔を上げれないままに頷いた。その仕草に愛しさが込み上げる。壊れてしまわないように抱きしめる腕に加減をするのが難しい。どうにか震えが収まるようにしてあげたいという気持ちはあっても、何をすればいいのかはわからない。でも、今はこれでいい気もした。正確に返事がもらえたとは言えないかもしれない。しかし、美海の精一杯がこれだ。だとすればその姿に寄り添うことを許されたことを素直に喜んでいたい。すぐ傍で。
「…勇気をくれたのは、浅井さんです。」
腕の中の美海がゆっくりと顔を上げた。
「…曖昧な返事で…すみません。」
「ううん。でもこれで、彼氏面してもいいってことかな?」
「…か、かかかっ…彼氏…なんて…おそれ多いです…。」
「じゃあ…何だろう?俺って松下さんの何?」
「……。」
黙って悩んでいる姿すら可愛いと思えてしまうのだからもう相当頭もいかれている。
「…彼氏として、立たせて。松下さんにまだそんな気はなくても。ひとまず嫌いじゃないなら。」
「…嫌いじゃ…ありません。」
「それ以上を言えないのは、わかったから。だから今はその言葉で、勝手に俺を好きだと思うから。」
涙目のまま、無理に笑顔を作ろうとしているのは見ればすぐにわかった。そんな姿すら愛しく思えて仕方がない。その気持ちが抑えられなくなって、圭介はもう一度その身体を強く抱きしめた。そして、頭頂部に小さく唇を落とした。
「浅井…さん…っ!?」
「ものすごく妥協してここだから。」
「へっ…?」
みるみるうちに真っ赤に染まる頬に、耳。嫌じゃないと打ち明けてくれたときよりもずっと赤いその頬に口付けたら、きっと彼女は倒れてしまうだろう。今日、そんなことをしてしまうことはできない。まだ彼女のそこに触れていいときではない。
「び…びっくり…しました…。」
「うん。顔が真っ赤。」
まだ、彼女の想いの淵に触れてもいないのだろう。なぜ好きだと告げるのがそんなにも怖いのか、それを聞くには早い気がした。
「…でも…やっぱり…。」
「ん?」
「…浅井さんの近くは…安心します。浅井さんが…優しいからですね。」
『ドキドキして苦しくもありますが』と付け足された言葉に自然と口元が緩む自分を感じた。
「…優しくないよ。優しくしたい人以外には。」
「…そんなことないですよ。」
やっぱり彼女は頑固者だ。