10回目のキスの仕方
「ところで美海ちゃんが持ってるものはなぁに?」
「あ、あのこれっ…肉じゃがなんですが…。」
「えー肉じゃが!あたし大好き。食べよう食べよう!」
「俺より先に食べないで。」
「えー何よそれー。ひょっとしてヤキモチ?」
「そう。…いただきます。」

 圭介が綺麗に手を合わせた。タッパーウェアのふたを開け、じゃがいもと肉を口に含む。

「ん、んまい。」

 ヤキモチという言葉を何の躊躇いもなく肯定する圭介に、余計に顔が熱くなり、それと同時に美味しいという言葉に美海は安堵した。

「えーじゃああたしも貰うー。圭ちゃんお箸ちょーだい!」
「はいはい。」

 すっと立ち上がり、圭介は台所の方へと向かった。小春はというと、美海の隣に急接近していた。

「良かったね、美海ちゃん。」
「あっ…えっと…はい!良かったです…。」
「彼女として彼氏の胃袋掴んでおくのは大事よー。それに圭ちゃん、一通りの家事はできちゃうから、ちょっとのことじゃ女子力として認められないから。」
「そ…そうなんですか…。」

 一通りの家事ができる、というのは初めて知った。そう考えると圭介のことはほとんど知らない。大学が同じで、同学年であり、同じ作家の本が好きということ以外は、おそらく何も。

「…頑張らないと、いけませんね。」
「んーどうなんだろ。圭ちゃんは美海ちゃんにそこまで求めてないかも。」
「はい。」
「あ、ありがと。」
「何か余計なこと言わなかった?」
「な、何も!あ、でも、圭介くんが家事ができるということを教えてもらいました。」
「余計なことでは…まぁ、ないか。」
「でしょ?圭ちゃんの女子力高めだから、胃袋掴むの大変だよって言っておいた。」
「それは余計。」

 こんな風にぴしゃりと物を言う圭介は美海にとってとても新鮮だ。

「美味しい。」
「あり…がとう、ございます。」
「ねぇ、なんで敬語なの?圭ちゃんの方が年上?」
「春姉少し黙って。ずけずけ言い過ぎ。美海が混乱する。」
「わ、私なら大丈夫です!」
「そうだよね!じゃあ飲もう、美海ちゃん!」
「は、はいっ!」
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