10回目のキスの仕方
* * *

「ん…。」

 眠い目をこすると、朝の光が差し込んでいた。布団の香りが違うことにはっとして目を見開くと、ベッドの右側が少し沈んでいることに気付いた。

「っ…!」

 圭介が美海の顔の近くに顔を乗せて眠っていた。あまりにも近すぎる距離に美海は完全に目が覚めてしまった。美海の動揺が空気に伝わったのか、圭介がゆっくりと目を開けた。

「…ん…あ…おは、よう。」
「おはよう…ございます…というかすみません私!ベッドを占領していたようで…!」
「…あー…違う…。春姉に潰されて寝たから運んだだけ。」
「ね、寝たんですか私…お姉さん、いらしてたのに…すみませんっ!本当に!」
「美海は全然悪くないよ。酒弱いんだって結構言ったのに、それでもぐいぐい飲ませたのは春姉だし。寝たことも気にしてないと思う。むしろ喜んでた。」
「え…?」
「可愛い寝顔が見れたって。」

 さらりと言われた『可愛い』という言葉に心拍数が上がる。冷静になると、酔っていたとはいえ圭介の家に泊まったのは事実である。その事実も美海の赤く染まる頬に拍車をかけた。

「変わった人で驚いた?」
「…びっくりしたといえば、びっくり…しましたが…。」
「そうだよね。」
「…でも…。」

 記憶が曖昧なところもあるが、思い出せる限りの小春はよく笑って、よく食べて、よく話す人だった。そして圭介と同じような温かさを感じた。

「…とっても楽しい人だなって思いました。私、一人っ子なので姉弟とか憧れます。小春さんがお姉さんだったら楽しそうだなぁって思いましたよ。」
「…まぁ姉弟は春姉だけじゃないんだけど。でも、少し興味があるんだったら…。」
「…?」

 圭介が少し視線を泳がせてから、美海を真っ直ぐに見つめて口を開いた。

「実家に行く?俺と一緒に。」
「え…えぇ!?」
「驚きすぎ。まぁ、想定内だけど。」

 そう言って、圭介は一度立ってベッドに腰を下ろした。視線はゆっくりと美海に合わせられた。

「親に挨拶しろとかそういうことじゃなくて、春姉は美海のことを気に入ったみたい。もっと話したいって言ってた。今夏休みだし、どうかって春姉の提案。」
「…そう…ですか…。」

 気に入られた、というのはとても嬉しい。美海としても、小春と話すのは楽しかった。それに、圭介の家族に興味がないというわけではない。ただ、不安は残る。
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