10回目のキスの仕方
* * *
今までしてきたたくさんの会話の中で初めて美海が、核心に触れるようなことを口にしたと圭介は思った。
「…私の家とは違いすぎて…私は馴染めるかなぁって。」
自分の身体も、心も大切にできない理由が気になっていた。最初の頃はそんなこともなかったけれど、今となっては気にかかる。誰かを傷つけることを恐れていること、そして、常に自分をないがしろにしているように見えるということ。その二つに正当な理由をつけるには足りないが、美海が何に縛られているのかに気付く糸口にはなりそうだ。まだ、踏み込んでいい時ではない。それは直感的にわかる。だから踏み込みはしない。そっと見守るだけだ。
「…圭介、くん…。」
「ん?」
「…もう少し、落ち着くまで…。」
「うん。」
「このまま、手を…握っててもらってもいいですか?」
「…もちろん。」
不器用で甘えることができない彼女の、今できる精一杯の甘え。それを受け止めてあげたいと思うし、甘やかしてあげたいとも思う。そんな気持ちを込めて、圭介は少しだけ上から握った手に力を込めた。
「…圭介くんの手、大きいですね。」
「美海の手に比べたら、そりゃあ。」
「…ほっとします。」
少しずつ意識をして、気持ちを伝える言葉を言ってくれていることがわかる。頑張っていることは、見ていればわかる。頑張っている彼女を健気で愛しいと思うと同時に、頑張りすぎなくていいとも思う。ただ、それを上手く伝えるだけの言葉を自分はもたない。
「…圭介くんのご実家はどこにあるんですか?」
「栃木。だからここからだと東京まで出てから新幹線か、もしくは鈍行。」
「栃木…行ったことないです。」
「そんなに有名どころでもないしね。」
「…緊張は…やっぱりしますが、でも楽しみです。」
「…うん。」
もっと気の利いた言葉を掛けてあげることができたら良いのにと思うことはたくさんある。それでも、上手く言葉にならないことの方が多くて、伝えるべき言葉を伝えきれていない。美海がそこを気にしていることも知っているが、それができていないのは自分だって同じだ。
「…休み、いつなら合う?」
「あ、そうですね!日程調整しないと…。」
そう言って美海が立ち上がった。自分の手の下にあった美海の手がするりと抜けていった。鞄の中から薄いスケジュール帳を出し、8月のページまでめくった。
「…8月は…あ、お盆はすみません、私バイトが…。」
「お盆は俺もバイト。」
「あ、でも8月の最終週はお盆の出勤の代わりに1週間休みです!」
「…最終週は3連休はあるけど。ちょっと交渉する。美海はこの1週間の中だったらいつでも大丈夫?」
「はいっ!」
「じゃあ、俺が調整できたらそれで連絡してもいい?」
「は、はいっ。大丈夫です。」
「わかった。じゃあそういうことで。」
「はい、…あの、よろしくお願いします。」
美海の頭が小さく下がった。圭介の口元が自然と緩む。
「…じゃあ顔を上げて、ご飯にしよう。何が食べたい?」
「い、いえっ!ここは泊めていただいたお礼に私が…。」
「美海からは肉じゃがもらったし。…フレンチトーストは?」
「フレンチトースト!大好きです。」
「じゃあ、それで。」
(…まだ、触れない。でも、触れたい。)
今までしてきたたくさんの会話の中で初めて美海が、核心に触れるようなことを口にしたと圭介は思った。
「…私の家とは違いすぎて…私は馴染めるかなぁって。」
自分の身体も、心も大切にできない理由が気になっていた。最初の頃はそんなこともなかったけれど、今となっては気にかかる。誰かを傷つけることを恐れていること、そして、常に自分をないがしろにしているように見えるということ。その二つに正当な理由をつけるには足りないが、美海が何に縛られているのかに気付く糸口にはなりそうだ。まだ、踏み込んでいい時ではない。それは直感的にわかる。だから踏み込みはしない。そっと見守るだけだ。
「…圭介、くん…。」
「ん?」
「…もう少し、落ち着くまで…。」
「うん。」
「このまま、手を…握っててもらってもいいですか?」
「…もちろん。」
不器用で甘えることができない彼女の、今できる精一杯の甘え。それを受け止めてあげたいと思うし、甘やかしてあげたいとも思う。そんな気持ちを込めて、圭介は少しだけ上から握った手に力を込めた。
「…圭介くんの手、大きいですね。」
「美海の手に比べたら、そりゃあ。」
「…ほっとします。」
少しずつ意識をして、気持ちを伝える言葉を言ってくれていることがわかる。頑張っていることは、見ていればわかる。頑張っている彼女を健気で愛しいと思うと同時に、頑張りすぎなくていいとも思う。ただ、それを上手く伝えるだけの言葉を自分はもたない。
「…圭介くんのご実家はどこにあるんですか?」
「栃木。だからここからだと東京まで出てから新幹線か、もしくは鈍行。」
「栃木…行ったことないです。」
「そんなに有名どころでもないしね。」
「…緊張は…やっぱりしますが、でも楽しみです。」
「…うん。」
もっと気の利いた言葉を掛けてあげることができたら良いのにと思うことはたくさんある。それでも、上手く言葉にならないことの方が多くて、伝えるべき言葉を伝えきれていない。美海がそこを気にしていることも知っているが、それができていないのは自分だって同じだ。
「…休み、いつなら合う?」
「あ、そうですね!日程調整しないと…。」
そう言って美海が立ち上がった。自分の手の下にあった美海の手がするりと抜けていった。鞄の中から薄いスケジュール帳を出し、8月のページまでめくった。
「…8月は…あ、お盆はすみません、私バイトが…。」
「お盆は俺もバイト。」
「あ、でも8月の最終週はお盆の出勤の代わりに1週間休みです!」
「…最終週は3連休はあるけど。ちょっと交渉する。美海はこの1週間の中だったらいつでも大丈夫?」
「はいっ!」
「じゃあ、俺が調整できたらそれで連絡してもいい?」
「は、はいっ。大丈夫です。」
「わかった。じゃあそういうことで。」
「はい、…あの、よろしくお願いします。」
美海の頭が小さく下がった。圭介の口元が自然と緩む。
「…じゃあ顔を上げて、ご飯にしよう。何が食べたい?」
「い、いえっ!ここは泊めていただいたお礼に私が…。」
「美海からは肉じゃがもらったし。…フレンチトーストは?」
「フレンチトースト!大好きです。」
「じゃあ、それで。」
(…まだ、触れない。でも、触れたい。)