10回目のキスの仕方
* * *

「意外と空いてる。」
「夏休みですが、終盤ですからね。」

 向かい合わせになっている座席のある車両に乗り込み、棚の上にボストンバックとリュック、そして土産を乗せた。

「…バック、重くてすみません…。ありがとうございます。」
「全然。どういたしまして。」

 本来ならば栃木まで新幹線で行けるが、かかる交通費が2倍ということで鈍行列車での移動を美海たっての希望で選択した。ここから2時間ほどで浅井家に到着する。

「寝ていいよ。眠いでしょ。」
「そ、そんなことないです!元気です!」
「緊張して眠れなかった、って感じ。」
「っ…。」

 図星をつかれて、美海の頬は赤く染まった。確かに眠れなかった。そして、電車特有の揺れにめっぽう弱くて眠くなってしまう体質をもつ美海としては、睡魔に抗う方が難しい。

「…だから、眠っていいよ。俺も寝る。」
「圭介くんも?」
「うん。どうせ実家帰ったらこき使われてあんまり眠れないし。」
「私にもお手伝いさせてください!」
「…うん。だから今は休息。」

 そう言って圭介はゆっくりと目を閉じた。それを見て、美海も静かに目を閉じた。ガタンと電車が心地よく揺れる。揺れに合わせて、美海はゆっくりと意識を手放した。


* * *

 圭介は目を閉じただけで眠ってはいなかった。自分の左側に負荷を感じて目を開けると、美海が少しだけ圭介にもたれかかって眠っていた。

「ん…。」

 少し身じろぎ、身体が離れた。窓に頭をぶつけそうになって、圭介は慌てて美海の身体を引き寄せた。

「窓よりこっちにして。」

 自分の方にもう一度もたれさせる。右手でそっと乱れた髪を掬い上げれば、幼い寝顔が見える。負荷とも言えないくらいに軽い美海の重さをしっかりと感じられるように、圭介の方から少しだけ身を寄せた。美海が手を動かしたことによって重なった手。下にあった圭介の手は、ゆっくりと抜かれた。美海の細い指に圭介は指を絡めた。そこから伝わる美海の温い体温に、目を閉じた。
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