10回目のキスの仕方
* * *

「美海、次の駅で降りるんだけど。」
「ん…。」

 身体をゆすられて目をこすると、圭介が棚からリュックを下ろしていた。

「…次…次!?次ですか!?」
「うん。ごめん、もっと早く起こせば良かった?」
「いえあの…すみません…。」
「よく寝てた。」

 そう言って笑う圭介に顔が熱くなった。

「圭介くんも…寝ましたか?」
「寝たけど、美海ほど熟睡じゃなかったよ。移動中って結構完全には眠れない。」
「…子どものように…すみません。」
「いや。…あ、父さんが駅まで車で迎えに来てるって。」
「お、お父様が…。」
「張り切りすぎてる。」
「…第一印象、大事ですよね…。」

 美海はまだ少し眠気の残る頭をはっきりさせたくて頬を両手でパチンと叩いた。

「目、覚めました。」
「…いきなり何かと思ったらそういうことか。」
「顔、大丈夫ですか?眠そうじゃないですか?」
「…大丈夫。」

 ポンといつものように軽く乗った圭介の大きな手に安心して、美海も笑顔になった。

「降りるよ。」
「あ、ボストンバックください!」
「…仕方ない。その代わり、お土産は持つ。」
「どっちも持てます!」
「…だから、ってもう、わかってないな。」
「わっ!」

 お土産を美海の手から奪って、圭介は少し前を歩いた。

「圭介くん!」
「美海の方にいっぱい持たせてたら、俺が叱られる。」

 真顔でそう言う圭介に、美海は自分の頬が緩むのを感じた。そして、少し距離ができてしまった背中を追いかける。圭介は歩調を緩めて美海がついてくるのを待ってくれている。階段を下りてロータリーに出ると、圭介がきょろきょろと車を見渡した。

「あーいたいた。あっちの白い車。」

 圭介の指さす方にある白い車が美海たちの方に向かってゆっくりと走ってきた。
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