10回目のキスの仕方
 大きな玄関から家へと入る。少し古風な家屋のようである。リビングまでの間に縁側があり、美海は思わず口を開いた。

「縁側があるんですね…。」
「あら、気に入った?」
「いいなぁって昔から思っていたんです。」
「じゃあ夜は縁側でゆっくりして。お酒でも飲みながら。」
「はいっ!」

 酒という部分は気になったが、夏の縁側で一杯飲むというのはなかなか風流だと美海は思った。そんなことをぼんやり思っていた矢先、階段の上の方からドタドタとけたたましい音が聞こえてきた。

「美海さんー!!!!!」

 ドンという音とともに、美海の目の前に現れたのは背丈は美海と変わらない高校生くらいの女の子だ。ポニーテールの髪はまだ揺れている。

「きゃー美人なんだけど!え、ほんとに圭ちゃんの彼女さん?圭ちゃんの方が何倍も劣ってない?美海さんいいの?美海さんもっと高いの狙わなくていいのっ…うえ!」
「日和お前…その残念な口、一体いつになったらどうにかできるんだよ。」
「うわぁ圭ちゃん、いたんだ。」
「雑な対応をありがとう。」

 とても冷ややかな顔をした圭介が、いつの間にか美海の背後に立っていた。美海はというと、日和のパワーに圧倒されている。

「春姉が可愛いって言ってたから間違いないって思ってたけど、可愛いし肌とかめちゃめちゃ綺麗だし、本当に圭ちゃんじゃない方がいいんじゃないかって…。」
「父さんは圭介もいい男だと思ってるけどなぁ。」

 車を置いてきた圭介の父が戻ってきたようだ。めまぐるしく交わされる会話に、美海は目が回りそうだった。

「母さん、飲み物ちょうだい。美海の分も。美海、座って。とりあえず日和から離れて。」
「えーなんでよー!てゆーか圭ちゃんは向こう戻っても美海さんと話せるけどーあたしは今しかないんだよ今しか!」
「そうだけど、ひとまず少し休憩。美海を休ませてあげて。」
「あの、私は大丈夫で…。」
「わかった!じゃあ、あたしの部屋で寝てね、美海さん!夜お喋りしよう。」
「日和の狭い部屋なんかで寝させられません!」

 今度は圭介の母だ。

「美海ちゃんはお母さんと一緒の部屋よ。」
「えーなんでよ!お母さんと一緒より、絶対あたしと一緒の方が楽しいし。ねー美海さん。」
「えっと…あの…。」

 あまりの熱烈な歓迎っぷりに美海はたじろいだ。まさか寝る場所を巡って自分の取り合いが行われるなんて、思ってもみなかった。
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