10回目のキスの仕方
* * *

 浅井家に到着してから、3時間。午後3時の日差しは凶悪だ。

「今日は春姉と亮兄は来るの?」
「そうね、小春はそろそろ…。」
「たっだいまー!美海ちゃん美海ちゃん!」

 突き抜けた声に聞き覚えがあった。バンとドアを開けて入ってきたのは、もちろん小春だ。

「きゃー美海ちゃん!久しぶり!」
「こ、小春さんっ…!」

 思い切り抱きつかれて、美海の身体は少し傾いだ。背中をぐっと押されたのを感じる。押した手は圭介のものだ。

「春姉、強い。」
「春姉ずるいーあたしもー!」
「美海ちゃん抱き心地最高!彼女にしたい!」
「帰ってきて最初にそれかよ…ったく。」
「あら、お帰り。」

 美海から身体を離して、小春は圭介を見つめてそう言った。

「おまけも帰ってきてます。」
「おまけっていう自覚はあるのね。」
「こんなに扱いが違ければ、嫌でも自覚する。」
「おー賢くなったねぇー。」
「ねぇねぇ春姉、亮ちゃんは?」
「んー仕事終わったら来るって。香苗ちゃんと香歩ちゃんも。」
「香歩に会うの、久しぶり。」
「香歩ちゃん、大きくなったわよー。」

 美海の知らない名前が行き交う。亮ちゃんというのは圭介の兄のことであることはわかるが、香苗と香歩というのは一体誰なのだろう。

「ほーら圭ちゃん、美海ちゃんが不思議がってる。説明説明。」
「あぁ、香苗さんは亮兄の奥さんで、香歩は娘。」
「ご、ご結婚されているんですね…!」
「まぁ、いい年だしねー。香歩ちゃんは可愛いわよー。はぁ…今可愛い子がたくさんいるのねこの家…。」

 小春はうっとりとした表情を浮かべている。呆れ顔なのは圭介だけだ。

「あ、圭介。これから山城さんの物置の修理に行くんだけど、一緒に行ってくれないかい?」
「いいよ。」
「美海ちゃんのことは悪いようにはしないからさ、ご心配なく~!」
「じゃあ、ちょっと行ってくるから。嫌なことは嫌って言いなよ、ちゃんと。」
「だ、大丈夫ですよ!」

 玄関までついていき、そこで見送る。

「んじゃ、行ってきます。」
「ご飯までには戻るからね。」
「あ、えっと…いってらっしゃい!」

 美海は笑顔で送り出した。
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