10回目のキスの仕方

＊　＊　＊

　6時を少し過ぎた頃に、圭介と圭介の父は帰ってきた。

「ただいまー。」
「ただいま。」
「あ、あのっ、おかえりなさい！」
「あ、うん。」

　玄関にある柱の奥の方から、小春と日和がにやつきながら顔を出した。

「新妻ができた気分、楽しめたぁ～？」
「圭ちゃん、顔赤い～！」
「…ったくロクなこと考えない。この家の女は。」
「美海ちゃんもこの家の女ですが？」
「いちいち上げ足取るなよ。美海は含まないに決まってる。」

　圭介の頬や服が汚れている。美海はそっと手を伸ばした。

「っ…な、なに…？」
「あ、えっと…あの、汚れてるなって…。」
「あ、そ、そっか。うん。びっくりした。」
「えっ、ご、ごめんなさい！」

「…日和。なにあれ。」
「圭ちゃんの顔が気持ち悪い。」
「いいなぁ、ああいう時代、父さんたちにもあったんだけどなぁ。」
「いいから早く手を洗って！ご飯の準備できてるわよ。」

「…外野、本当にうるさいんだけど。」
「…ご、ごめんなさい…私がいきなり…。」
「いや、美海は悪くない。大概うちの家族が悪い。」

　その時、玄関のチャイムが鳴った。

「おーい、遊びに来たぞー。」
「あ、亮ちゃんだ！」

　日和が玄関の鍵を開けると、圭介よりも少し背が低い男の人と、身長があまり変わらない女性と、その腕には小さな女の子が抱かれていた。

「亮兄。」
「うわー圭介本当にいるし。そしてこの可愛い子が噂の彼女さん？」

　向けられた笑顔は、圭介の父が笑うときによく似ている。そんな印象だった。

「圭介の兄の亮介です。妻の香苗、娘の香歩です。」
「圭介くん、久しぶりだねー。」
「香苗さん、お久しぶりです。香歩も、大きくなった。」
「ねー子供の成長って早くてびっくりしちゃう。」

　香歩が圭介に手を伸ばす。圭介がそっと香歩を抱き上げた。
　とても優しい顔で笑う圭介を見て、美海の胸がとくんと鳴った。