10回目のキスの仕方

＊　＊　＊

「…おはよう。」
「おはようございます！」
「なにそのエプロン。」
「あたしが着せたの～！美海さんに超似合ってるでしょ？」

　得意気な表情を浮かべているのは日和だ。美海はといえば、薄いピンクのやたらにふわふわしたエプロンを身につけたまま、キッチンに立っていた。

「朝ごはん、準備しますね？」
「あー…自分でやるよ。」
「いつも自分でやらないくせに、美海ちゃんには甘いんだから。」
「…うるさいよ。」

　自分に甘いことを、これでもかというくらいには知っている。そんな美海の頬は熱くなった。

「何時に起きたの？」
「えっと、6時半には…。」
「もしかして、眠れなかった？」
「い、いいえっ！よく眠れました。敷布団もふかふかで…。」
「なら、いいけど。」

　美海が盛った味噌汁を、圭介はそっと持って食卓に向かう。いつの間にかご飯もよそっていたようだ。美海も自分の分を用意して、圭介の隣に座った。
　きちんと合わせられる手、『いただきます』の低い声。美海もそっと手を合わせた。
　今日の食卓を囲むのは美海と圭介と日和だけだった。小春は仕事に行き、圭介の父は盆栽教室に行き、圭介の母は洗濯中だ。美海としては洗濯も手伝いたかったが、それなら洗い物をやってほしいと言われては、従う以外にない。

「朝から母さんの手伝いしてたんだ。」
「圭介くんのお母様の味付けですよ。美味しいですね。」
「美海の味も美味かった。」
「美海さん、圭ちゃんにご飯作ってあげてるの！？」
「い、いえっ…！たまたま肉じゃがを作りすぎてしまって…。」
「お裾分け。」
「ふぅん。」

　意味ありげな表情を浮かべて、日和は食べ終わった食器を片付けて自室に戻っていった。食卓に残されたのは美海と圭介だけだ。静かに箸を動かす圭介の動作はいつ見てもとても綺麗だ。

「疲れた？この家。」
「い、いいえっ！とても楽しいです。…お手伝いはあんまりできてないのですが…。」
「いいよ。そんなにやらなくて。」
「いえっ！お母様とお話できるのも…楽しいですから。」

　キッチンで料理を手伝いながら、沢山の話を聞いた。その全てが、圭介をとても大切にしていることがわかる内容で、朝から心温まったのが嬉しかった。