10回目のキスの仕方
「昨日、日和と春姉にやられなかった?」
「え?」
「いや、何もないならそれにこしたことはないんだけど。」
「お二人にはとっても良くしてもらって…。」
「そう。ならいいんだけど。」

 昨日の小春との会話は言えるはずもなかった。人を信用していない、だなんて。

「あ、そうだ。俺、今日もちょっと出かけないといけないんだけど。」
「お出かけ、ですか?」
「昨日行った山城さんの家に行って修理の手伝い。」
「物置でしたよね?危なくないんですか?」
「んー…まぁ、落ちたら危ないかもしれないけど、落ちないから大丈夫。」
「…そう、ですか。」
「美海さぁーーーん!!!」
「へっ、あ、はいっ!」

 ドタドタと階段を駆け降りる音とほぼ同時に聞こえてきた日和の声に、美海の背筋はピンと伸びた。

「…日和、うるさいって。」
「圭ちゃんが山城さんのお家行くならあたしたちはショッピング♪」
「え?」

 日和はにっこりと笑って美海の方を見た。

「美海さんに似合いそうな洋服見立てたい!というわけで圭ちゃん、お金ちょーだい!」
「ちょっと…意味がわからない。」
「なんでー!?」
「お、お金ならあります!大丈夫です!バイトもしてますし。」
「えーでもさぁ、こういうときってさー彼氏が買ってあげるもんじゃないの?」
「一緒に行くなら買ってあげるけど、俺、一緒に行けないから。」
「だ、大丈夫ですよ!買ってもらうなんてそんな…。」
「って言うと思ってたけど。」

 『日和もあんまり振り回すなよ。』とだけ言って、圭介は立ち上がる。

「ご馳走様でした。」
「あ、片付けます。」
「一緒に片付けるよ。」
「圭ちゃんに任せちゃって、美海さんはお出かけの準備しようよ。」
「そ、そんなこと、できません!すぐ終わらせて準備しますっ!」

 そう言って美海は、食べていた食器を流しに置いた。水を出して、茶碗に少しためておく。美海がスポンジを取ると、その隣に圭介が並んだ。

「手伝う。」
「あ、えっと…あの、お願いします。」

 美海がスポンジで洗った泡を圭介が手際よく流していく。美海が食器を手渡す丁度良い位置に圭介の大きくて優しい手がある。それに何となく笑みが零れて、圭介が不思議そうに美海を見つめた。
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