10回目のキスの仕方
* * *

 日和とショッピングを楽しんで、いつの間にか4時になっていた。日和に見立ててもらって、夏らしいスカートを買った。これを着てデートに行ってほしいと言われてしまった。そんな中、突然美海のスマートフォンが震えた。ディスプレイに表示された番号は知らない番号だった。恐る恐るタップすると、知っている声が聞こえてくる。

『美海ちゃん!今どこ?日和と一緒なのよね?』
「小春さん?」
『圭ちゃんが病院に運ばれちゃったってお父さんから連絡入ったの!』
「え…?」

 全身の血の気が引いていく。少しずつ力が抜けていく。

「美海さん…?なんで泣いて…。」

 気がつくと両目から涙がとめどなく流れていた。身体もいつの間にか震えている。

「美海さん?もしもし?」

 美海の手からスマートフォンを取り、日和が代わりに電話に出た。

「え、圭ちゃんが病院?今ね、駅の近くだからすぐ行く。どこの病院?うん。わかった。」

 病院に運ばれたということは大きな怪我をしたのだろう。生死に関わる怪我だとは思っていない。それでも怖い。どうしても、怖い。病院という場所が怖い。何となく。

「美海さん、圭ちゃんの運ばれた病院、行こう?」

 震える美海の肩をもち、日和が歩みだす。美海は何とか自分の身体を起こして歩く。
 ずしんと重い身体。不安がフラッシュバックする。怖いのは、いなくなってしまうこと。失うこと。失ってしまうと、もう戻らないことを知っているから。
 電車に揺られ、駅を降りてよくわからない道を歩くと大きな病院に到着した。涙がようやく収まってきて、立てるようになってきた。ただ、震えが収まらない。

「美海さん、大丈夫?」
「…ごめん…なさい…。」

 謝ることに何の意味もないことはわかっている。こんな大事なときにふらふらしている場合でもないことはわかっている。それなのに何もできず、日和に支えられている。

「うわ、美海ちゃん!大丈夫!?」
「小春…さん…。」
「圭ちゃんは?」
「それがさぁ…。」

 心臓がドクンドクンとうるさい。緊張感が身体中を走る。
 病室のドアを小春がゆっくりと開けた。
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