10回目のキスの仕方

素直な想い

* * *

「圭ちゃーん!退院おめでとー!」
「…退院ってほど入院してない。」
「でも本当に軽傷で良かったねぇ~。」
「圭介は頑丈だな。」
「…能天気な家族。」

 右腕には包帯。頬には大きめの絆創膏、頭にもまだ包帯が巻かれていたが、今日の入浴時にはずしてそのままで良いらしい。

「美海ちゃん、安心だね。」
「大怪我じゃなくて良かったです。」
「お母さん、今日は頑張っちゃったからね!」

 目の前に広がる食事は、確かに今までで一番豪華である。

「「「いただきます!!!」」」

 きちんと全員が手を揃えて食事を始める浅井家を、やはり素敵だと美海は思った。そして、それが好きだとも。

「美海ちゃん、今日はよく食べるわね。」
「はい。お母様のご飯はとっても美味しいです。」
「美海ちゃんが明日で帰っちゃうなんてとっても寂しい~!」
「お母さんもよ…お母様なんて素敵に呼んでくれるし。」
「お母様なんてガラじゃないだろ、母さん。」

 右腕が痛いようで箸はいつもよりも動きが鈍いが、食欲はあるようでゆっくりながらも着実に、そして淡々と食事を進める圭介に、美海は微笑んだ。

「あら、美海ちゃん嬉しそう。」
「え、あ、えっと…そう、ですか?」
「うん。ほんとーに圭ちゃんが本当に大したことなくて良かったね、美海ちゃん。」
「はいっ!」

 そう返すと、小春はニヤッと笑いながら圭介を見た。

「はぁ~…今の顔見たぁ?…かっわいい…。ねぇ、圭ちゃん?」
「俺に振らなくていいから。」

 ほんのり赤く染まった圭介の頬に、美海の方も赤くなる。そんな二人を浅井家が温かく見守る。美海が今まで経験してこなかった温かさが当たり前にあるこの場所が、―――――好き。これを好きだと思えないはずがない。ずっと憧れていたいたもの。心の中では欲しいと思っていたもの。

 きちんと伝えたいと思える。自分の気持ちを。それは怖いけれど、それよりも怖いことを知ってしまったから。
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