10回目のキスの仕方
* * *
4時50分に、エプロンを着用した玲菜が店内へと入ってきた。美海と目が合うと、先に逸らしたのは玲菜だった。
「おー玲菜ちゃん。テスト、戻ってきた?」
「赤点なしです!凄いでしょ?」
「おー凄いー!」
上手く会話に入るタイミングを完全に逃し、美海はそっとレジ周辺から離れて本棚の整理に向かう。
「あのー、すみません。」
「は、はいっ!」
「この本が欲しいんですけど…。」
「はいっ…あの、少々お待ちください。」
客からメモを受け取った。美海もよく読む作家の一人の作品であるため、場所はしっかりと覚えている。落ち着いて案内できる。
「只今お持ちしますので、こちらでお待ちください。」
「あ、いえ。場所を覚えたいので教えてくださいますか?」
「はい。もちろんです。こちらになります。」
物腰の柔らかい、長身の男性がにっこりと微笑む。男性物の香水だろうか、ほのかに甘い香りがする。
「この棚の…あ、こちらです。」
「ありがとうございます。探すのが苦手で…助かりました。」
「いえ。とっても面白い本ですよ。ぜひ楽しんでください。」
「…読まれたんですか?」
「はい。この作家さんのお話が結構好きで…はい。」
「そうなんですか。ありがとうございます。読むのが楽しみです。」
笑顔に笑顔を返すことが前よりもずっと上手くなったのに、肝心なところでは難しい。笑顔以前に言葉だって上手には出せない。
「また、ぜひ紹介してください。」
「わ、私でよければ喜んで。ぜひ感想もお聞かせください。」
「はい。」
美海は小さく頭を下げた。すると、男は笑顔を浮かべながら美海に合わせて頭を下げる。会計を済ませた男が店を出ていく音がして、その背中に向かって美海は大きな声で『ありがとうございました』と言った。
4時50分に、エプロンを着用した玲菜が店内へと入ってきた。美海と目が合うと、先に逸らしたのは玲菜だった。
「おー玲菜ちゃん。テスト、戻ってきた?」
「赤点なしです!凄いでしょ?」
「おー凄いー!」
上手く会話に入るタイミングを完全に逃し、美海はそっとレジ周辺から離れて本棚の整理に向かう。
「あのー、すみません。」
「は、はいっ!」
「この本が欲しいんですけど…。」
「はいっ…あの、少々お待ちください。」
客からメモを受け取った。美海もよく読む作家の一人の作品であるため、場所はしっかりと覚えている。落ち着いて案内できる。
「只今お持ちしますので、こちらでお待ちください。」
「あ、いえ。場所を覚えたいので教えてくださいますか?」
「はい。もちろんです。こちらになります。」
物腰の柔らかい、長身の男性がにっこりと微笑む。男性物の香水だろうか、ほのかに甘い香りがする。
「この棚の…あ、こちらです。」
「ありがとうございます。探すのが苦手で…助かりました。」
「いえ。とっても面白い本ですよ。ぜひ楽しんでください。」
「…読まれたんですか?」
「はい。この作家さんのお話が結構好きで…はい。」
「そうなんですか。ありがとうございます。読むのが楽しみです。」
笑顔に笑顔を返すことが前よりもずっと上手くなったのに、肝心なところでは難しい。笑顔以前に言葉だって上手には出せない。
「また、ぜひ紹介してください。」
「わ、私でよければ喜んで。ぜひ感想もお聞かせください。」
「はい。」
美海は小さく頭を下げた。すると、男は笑顔を浮かべながら美海に合わせて頭を下げる。会計を済ませた男が店を出ていく音がして、その背中に向かって美海は大きな声で『ありがとうございました』と言った。