10回目のキスの仕方
* * *

(…圭介くんに、会いたい、な。)

 ぼんやりとそう思った。もしかしたらいないかもしれない。それでもいいと思った。美海は一度家に帰り、荷物を下ろすと圭介の部屋へと向かった。チャイムを鳴らすと、インターホン越しに声がした。

『…はい。』
「あ、えっと、松下美海です。」
『え、あー、うん。今開ける。』

 ガチャっと音がして、圭介が玄関から出てきた。少し驚いた顔をしているのは、おそらく美海が突然やってきたからだろう。

「圭介くん。」
「…何かあった?」
「…何かないと、来ちゃだめですか?」
「…そうじゃ、ないけど。…怒ってる?」
「怒ってないです。あの…図々しいお願いをしに…。」
「お願い?まぁとにかくここじゃなんだし、入る?」
「あ、いえ…お時間は取らせない…お願いです。」
「…ますますわからないんだけど。」

 美海は圭介の目を真っ直ぐ見つめて口を開いた。

「今日、私にしては頑張ったので、頭…撫でてもらってもいいですか?」
「え…?」
「…だめ、ですか?」
「…だめじゃないけど、ひとまず入って。じゃないと無理。」
「え、うわ!」

 ぐっと腕を引かれて、玄関に半ば強制的に招き入れられる。ドアが閉まった。

「他人が通るかもしれないところでそういうこと…俺できない。」
「そういうこと…と申しますと、頭を撫でる、ですか?」
「うん。さすがに人目が気になる。」
「…すみません。」
「あー…違う。別にしたくないとか、そういうことじゃないんだけど…。」

 圭介の顔をまじまじと見つめると、ほんのりと耳が赤い。それを誤魔化すように、圭介の大きくて優しい手が美海の頭に乗った。そしていつもよりも少し乱暴にぐしゃぐしゃと撫でられた。

「うわぁ、圭介くん!ちょっと強いです。」
「美海にしては頑張ったんだろ?」
「…玲菜さんに、きちんと謝れました。圭介くんを好きにならないって…嘘を吐いたこと、ちゃんと言えました。でもそれは悪いことじゃないから謝らないでって言われたので…私は嘘を吐いたところだけ謝りました。」
「…なるほど。それは本当に頑張った。美海もだけど、玲菜も。」
「…そう、ですね。玲菜さんにたくさん教えてもらいました。」
「…それで、これが言いたくて来たの?」
「…はい。頭撫でてもらえると…安心するので。あと頑張ったので、ご褒美に。」
「ご褒美、俺?」
「…えっと…その、そういう風に言われてしまうと…なんか恥ずかしい…のです…が…。」

 真っ赤に染まった頬のまま、二人で顔を見合わせた。
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