10回目のキスの仕方
 ひとしきり話をし終わると、美海の頬は熱くなっていた。

「…なんで美海にはそんなに劇的なことが起こってるわけ?」
「…そんなこと、私が一番わかんないよ…。」
「それで、浅井サンにお礼がしたい、と。」
「うん。」

 明季に全てを話したくて家に来てもらったわけではない。そもそも美海が悩んでいたのはお礼の件だ。それは今日中になんとか解決したい。

「…お礼とか、逆に変なのかな?」
「変って?」
「…そこまで深く、考えることでもないのかな、普通は。」
「…普通、かぁ。でも、普通が何なのか知らないけど、お礼、したいって思ったんでしょ、美海は。」

 美海は頷いた。それは紛れもなく本心である。

「じゃあいいんじゃない、お礼したら。」
「…そっか、ありがとう、明季ちゃん。」
「どーいたしまして!さて、じゃあ何にしようか。」
「…食べ物、とか?」
「そうだね。んー…嗜好がわからないからねぇ…。」
「それなんだよー!」

 そんな風に悩んで1時間。明季のバイトの時間になってしまった。

「あぁーもうごめん!バイトだ!また月曜、進展あったら絶対報告だから!」
「だから、そういうのじゃないってば…。」
「またね、美海。」
「明季ちゃんもバイト、頑張ってね。ありがとう、来てもらっちゃって。」
「ううん。」

 明季が自転車に乗ってすーっと遠ざかっていく。その背中を見送ってから、美海は歩いて一番近くのコンビニに向かった。最近気に入っているチョコの菓子を2袋買う。1つは自分用、もう1つは圭介用だ。結局、相手の嗜好がわからない以上、自分が貰ったら嬉しいものをあげるしか、美海には思いつかなかった。
 家に戻りタッパーウェアと菓子をビニール袋に入れた。少し心配だから、メモも添える。そしてその袋を圭介の家の玄関のドアに引っ掛けた。たったそれだけのことなのに、美海の心拍は異常なほど高い。

「…せめて、迷惑じゃないと…いい、けど。」
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