10回目のキスの仕方
 度入りの眼鏡のコーナーのものも、レンズをパソコンに変えることが可能なようで、とするならばフレームだけで100種類はおそらくある。

「色々ありすぎます…。」
「まぁ色々試す?」
「圭介くんは眼鏡、たまにかけてますよね?」
「家では眼鏡だけど。」

 お互いの部屋を少し行き来するようになり、(と言っても食事を一緒に食べるだけではあるが)家での姿を今までよりもより見るようになった。眼鏡の圭介は数回しか見たことがないが、いつもと違う姿にドキッとしてしまう。

「美海は眼鏡はかける?」
「一つは持ってるんですが。」
「色は?」
「茶色です。」
「じゃあ違う色がいいか。試しに一つ。」

 そう言って差し出されたのは黒縁の眼鏡だった。試しにかけて、鏡を覗いた。

「…まぁ…無難?」
「そう、ですね。」

 鏡越しに目が合った。似合わなくはないけれど、圭介が言ったように無難な感じではある。

「こっち向いて。」
「え?」
「あー…うん。やっぱり無難か。」

 ぐいっと目を合わせられる。初めてのデートの夜以来、圭介は躊躇なく美海に触れるようになった。

「じゃあ次こっち。」
「え、あ、はいっ!」

 次に渡されたのは薄いピンクのフレームのものだった。かけてみて、また鏡を覗いた。

「…これは、ちょっと年不相応では…。」
「悪くはないけど…まぁ、美海がそう言うならなしか。」

 次々に色々なフレームを試す。着せ替え人形のような気持ちになる。数種類試したところで、圭介が頷いた。

「美海はどれがいい?」
「…あの、我儘言ってもいいですか?」
「内容にもよるけどとりあえずどうぞ。」
「…圭介くんが良いって思ったもので…お願いします。それを…誕生日の日にいただけますか?」
「それは…我儘って言わない。店の外で待ってて。」
「はいっ!」

 圭介が何色を選んでくれるのか、誕生日までの楽しみが一つ増えた。
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