10回目のキスの仕方

話せなかった過去

* * *

「何を作りますか?」
「美海は何が食べたいの?」
「…あまり、考えてませんでした。」
「なんで…誕生日じゃん。」
「そう、ですけど…圭介くんのご飯はいつでも美味しいですし。」
「…そういうことじゃなくて、こういうときの我儘は最大限に活用しないと。」
「我儘、ですか…。」

 はぁっと大きなため息を吐かれてしまった。

「誕生日の春姉なんか凄いから。だから美海のは何を言われても我儘に該当しない。」
「…小春さんはプレゼントのレベルも高そうですね。何をプレゼントしたら良いか悩んでしまいそうです。」
「美海があげるものなら何でも喜ぶだろうけど。それで、何が食べたいの。」
「…なんでしょう。圭介くんは?」
「だから、俺がじゃなくて…ってもういい。なんかこのまま決まらなそう。とりあえずサラダと、あとパスタにしようか。アサリあるし、クリームパスタ。」
「美味しそうです!」
「じゃあ早速。」

 今日は美海の誕生日だ。あれから色々なことを考えたり、思ったりしたけれど、結局隠せる部分はなく、話すとなれば全て話す以外になかった。それが嫌だということではもちろんない。ただ、一つ一つを思い出して語るには、思い出すこと自体が痛みを伴うものだった。
 美海の隣で手際よく包丁を動かしていく圭介を見つめていると手が止まってしまう。美海の視線に気付いた圭介が手を止めた。

「ん?」
「…あ、いえ。すみません、サボりました!」
「別にさぼってもいい…っていうか、むしろ積極的にさぼった方がいい日ではあるけど。」
「いえっ!そういうわけには…。」
「ベッドにごろんとしててもいいし。」
「ひ、人様の家でそんなことは…。」
「人様って…知らない人の家じゃないし。やっぱり手伝わせるのがだめな気がしてきた。やっぱり美海は座ってて。」
「えぇ…!嫌ですよ!一緒にやります!」
「だめ。寝てて。」
「嫌です!誕生日なのは私です!私が主役!」
「…春姉とは違うタイプの我儘なわけだ。わかった。じゃあこれ切って。」
「はい!」

 話すのは、食事を終えたら。そう決めたのは、自分だから。
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