10回目のキスの仕方

AとYの事情

* * *

「あの…どうして私を…?」

 12月の上旬となると、もう季節はすっかり冬で、凍てつく空気に息が白く染まった。今日の美海の目の前には困った顔をした洋一がいる。大学の帰りに声を掛けられて、ファミレスまで来た。

「…あの…。」
「ごめん。いきなり…。でも、浅井の許可は取ってる。」
「え?圭介くんは知ってるんですか?」
「だって人の彼女と二人っきりになって妙な誤解を招いてもさぁ…。」
「…そういう、ことですか。それで…私にどんな用事ですか?」

 講義が被っているときは会っているが、こうやって二人きりで話すことは初めてだ。そういう意味の緊張感が、背筋を走った。洋一は、ふぅっと大きく息を吐いてから、真っ直ぐに美海を見つめた。

「…あのさ、明季に…。」
「明季ちゃん、ですか?」

 明季のことで美海に話があるということなのだろう。美海は黙って続きを聞くことにした。

「明季に、…明季の、好きなものがわかんなくて。」
「明季ちゃんの好きなもの…ですか。でも、どうして急に…。」
「…クリスマス、だから。」
「…!」

 察しが悪いと明季に言われることの多い美海だが、さすがに察した。

「明季ちゃんにプレゼント…ですね!」
「…あんまり大きい声で言わないで。さすがに恥ずかしいし。」

 ほんのりと染まった頬。プレゼントの先に見える感情にまで合点がいった。

「…明季ちゃんのことが、好きなんですか?」
「…松下さんってどストレートな人間なんだね。」

 しばらく間があって、洋一は目を手で隠しながら口を開いた。

「…多分、好き。」
「多分、ですか。」
「いや、多分はいらない、かも。」

 自分が今日、ここに呼ばれた意味。それは、明季を知りたい洋一のために、だ。
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