10回目のキスの仕方
「…明季ちゃんのことを、好き…だから、プレゼント…ですか?」
「うん。…明季は全然気付いてないから。」
「明季ちゃんは…そう…だと思います。」
「そうって?」

 美海は明季を思い浮かべた。明季の今の姿と、出会った頃の姿の二つが思い出されて、それを話して良いものか迷う。しかし、洋一の質問に対して誠実に応えようとするのならば、言わねばならない。

「…明季ちゃんは、簡単に人を好きになりません。自分に向けられる好意を…素直に受け取ることができない…から。」
「…それは…どうしてなのか、松下さんは知ってる?」

 明季の気持ちを完全に知っているわけではない。ただ、出会ったあの日のことなら鮮明に覚えている。ずっと付き合い続けた中で、疲れたようにこぼした言葉も。

「…明季ちゃんの気持ちを全て知っているわけじゃ、もちろんありません。」
「そりゃそーだ。俺も人の気持ちなんてわかんないし。」
「…私と明季ちゃんは、高校からの付き合いなんです。だから今も知らないことはたくさんあるけど、でも出会った頃に明季ちゃんが言ったことは、ちゃんと覚えています。」
「明季が言ったこと?」

 美海は小さく頷いた。

「『…誰が私なんかを好きになるんだろう』って。とても遠くを見つめてそう言いました。」

 あの頃、…出会った頃は、今の明季とは全く異なっていた。笑いもしない、泣きもしない。ただ真っ直ぐに現実だけを見つめて、美海に言葉を吐いた。

『…嘘くさい笑い。』

 人と距離を置き始めた頃に、明季がそう言った。何もかも冷めた目をして、真っ直ぐに美海の本質を突いた。

「…でも、今の明季ちゃんは違います。たくさん笑って、楽しく過ごしています。明季ちゃんのプレゼント、一緒に考えます。何にしましょうかね。」
「…松下さん、いい人すぎるでしょ。」

 小さく落ちた洋一の笑みに、ほっと胸をなで下ろした。重い話をしてしまった。しかし、今の明季にはあの頃の様子は見受けられない。だからこそ、本当は言わなくてもよかったことなのかもしれない。それでも、自分に似ているところがあったから仲良くなれたのだと今は思う。だとすれば、今の自分を圭介が導いてくれたように、明季にも誰かがいてくれれば明季の笑顔が増えるのかもしれないとも思う。

「明季は何が欲しいんだろう…。」
「…明季ちゃんは、あんまり物を置かない主義ですからね。」

 二人で頭を抱えた。
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