10回目のキスの仕方

小春日和に図書館で

* * *

 気が付けば、4月ももう末になっていた。今日は日曜日。借りた本を読み終えて、図書館に返しに行く。今回は3冊しか借りなかったということでいつもより早く読み終わった。
 圭介とはあれから一度も会っていない。そのため、美海が渡した菓子が圭介の口に合ったのかどうかも定かではない。それはそれでとても気になったけれど、だからと言ってインターホンを鳴らす勇気もなく、明季には「つまらなーい」と言われる始末である。
 本が入っていることを確認して、鞄のチャックを閉めた。今回読んだのは、色々な作家が短編を書き下ろしたのを集めたものだ。これで新しく作家を見つけようと思い借りてみたところ、気になる作家ができたので今日はその作家の作品を探そうと決めていた。鞄を自転車のかごに入れ、自転車を押して、自転車置き場を後にする。ゆっくりと足をかけて漕ぎ出すと、ふわりと春の匂いがした。

「あったかーい。」

 坂道で思わず足を伸ばした。美海のセミロングの黒髪が春風に靡いていく。午後1時ということもあって、地面が日の光に暖められているような感じがした。図書館までの最後の道は上り坂である。さっきまでは風に靡いた美海の髪も、上り坂ではぴったりと髪にくっついてしまう。この坂道はいつも自転車を降りて、押してしまう。3分ほど押すと、いよいよ図書館の登場だ。
 自転車をとめて、鞄を肩にかけた。自動ドアの先には返却カウンターがある。ここでまずは借りた本を返す。

「ご返却ですか?」
「はい。」
「いつもご利用ありがとうございます。返却手続きを行いますね。」
「はい。ありがとうございます。」

 こういう人となら、口ごもったり顔を赤くすることもないのに、と美海は思う。圭介と出会ってから図書館に行くのは2回目で、その度に圭介との出会いを思い出しては顔が熱くなる。恥ずかしさでどうにかなってしまいそうな気持ちになるのだ。
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