10回目のキスの仕方
「…こんなことを言ったら怒ってしまうかもしれませんが…。」
「何、松下さん。」
「…照れてる姿をとても可愛いなって思ってしまいます。」

 それに、明季を大事に想う姿もと、これは心の中でだけ付け足した。

「…大の男つかまえて可愛いはやめてくれー…可愛くたって何にもいいことないし。」
「そんなことないですよ。」
「大体、浅井だって可愛いって言ったら怒るだろ?」
「…圭介くんは…怒らないです。」
「甘い顔、してるわけだ。彼女の特権であり、彼氏の特権だなー。」
「そ、そんなこともないです!」
「今度は松下さんの顔が赤い。」
「っ…!」

 頬に手をあてると熱がじわっと伝わってきた。熱いのはわかっている。洋一が言うように、確かに圭介は自分に甘い。それも少しではなく、とびきり。

「…でも、とりあえず松下さんとこうして話せてよかった。」
「お役には全然立てていませんが…。大丈夫ですか?」
「うん。明季のことはやっぱ人にきいててもだめだなって。知りたいことは基本自分で。あと、まぁ…色々あるみたいだなってのはなんとなく感じてたけど、それでもそれが何かってことはやっぱ自分でって思った。改めて、だけど。」

 その言葉を聞いて、美海はにっこりと微笑んだ。こういう人が明季を好きになってくれたことが嬉しい。前に、明季にたくさん応援してもらったことを思い出す。今度は自分が、その時は明季の背中を押せる人になりたい。そして、その時に明季の隣にいる人は、明季を心から大事にしてくれる人であってほしいと思う。自分について、明季がそう願ってくれたように、願いたい。

「越前くんが、明季ちゃんを好きになってくれて…良かったなって思います、私。なんか…おこがましいかもしれませんが。」
「いや…うん。普通に嬉しい。ありがとう、松下さん。」
「いえ。あ、でもせっかくですし、もっとちゃんと考えましょう!」
「うん。でも、…明季を誘う。」
「え?」
「ちゃんと言わないと伝わらないやつだってのは、よくわかったから。」

 美海は力強く頷いた。明季の幸せを願うからこそ、洋一に頑張ってほしいと思うから。
< 181 / 234 >

この作品をシェア

pagetop