10回目のキスの仕方
* * *

「へぇ…越前が。」
「…びっくりですよね。でも、嬉しいんですけど。」
「嬉しい?なんで?」

 夕飯を圭介と一緒に囲んでいた。話してよいものかとも思ったが、圭介も口外するタイプではないし、何よりこの喜びを分かち合いたかった。

「私の大事な人を大事に想ってくれて、もっと大事にしようとしてくれていることが嬉しいなって。」
「…多分神崎さんも似たような気持ちで美海を見てたんだと思うけど。」
「え?」
「別に俺と二人で何かを話したとか、そういうわけではないんだけど。」
「はい。」
「でも、美海と俺が話してるときに、何となく視線は感じたから。」
「し、視線ですか…。」

 圭介は小さく頷いた。

「美海を優しい目で見つめてた。女の友情はよくわからないけど、あんな感じなら春姉たちが言ってたほどは悪くないって思ったけど、俺は。」
「…そう、ですね。明季ちゃんが友達になってくれて、私はとても幸せだと思います。」
「美海と同じ顔して、神崎さんも同じことを言う気がする。」

 美海は微笑んだ。そうだと嬉しい。

「突然美海を借りたいって言われたから何かと思ったらそういうことだったわけか。納得。」
「遅くなってすみません。それに夕飯まで用意していただいて…。」
「食べてきてもよかったのに、夕飯食べるって言うから作ったけど。ファミレスで何も食べなかった?」
「…圭介くんのご飯の方が美味しいので…ファミレスではデザートだけです。」
「…はいはい。そのくらいで照れない。こっちが照れるから。」

 圭介の作るご飯は美味しい。そしてそれが当たり前のように出てくるこの空間が好きだ。圭介の家にいる時間が少しずつ増えて、緊張しないで何でも話せる空気ができてきた。

「何笑ってんの。」
「…明季ちゃんが、今の私みたいに何でも話せる人ができたら…もっと笑顔が増えるかなって。そういうことを考えたら楽しいし、幸せだなぁって。わ、私の問題は片付いてはないんですけど…でも、一人じゃないって思えることは大事かなって…。へ、変ですか?」
「いや、変じゃない。いいんじゃない。」
「じゃあなんで笑うんですか。」
「…笑ってる?」
「笑ってます!」
「ごめん。バカにしてるとかそういうんじゃなくて。…俺が普通に嬉しいだけ。」
「え?」

 圭介は小さく頭を掻きながら口を開いた。

「一人じゃない…って美海が思えてるってことが嬉しい。」

 その言葉に笑顔になったのは美海の方だった。
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