10回目のキスの仕方
「…明季ちゃんの話をしても、いいですか?」
「うん。」

 だめだと言わない相手だと知っているからこそ口にした言葉だった。こういうのも、きっと甘えに入るのだろう。

「出会った頃の明季ちゃんは、…今では想像できないくらいに笑わない人だったんです。冷めてて、みんなからは一線引いている感じで。」
「…へぇ。意外。」
「大学の明季ちゃんは違いますからね。でもきっと、明季ちゃんの本質は今なんだと思いますけど。」
「嘘には見えないかな、さすがに。」
「はい。でも、本当に高校1年生のときは…全くの別人でした。私が言うのもなんですが、友達もいなくて、少し近寄りがたくて。人を寄せ付けないようにしていた…みたいでした。後から話を聞くと、やっぱりそうだったみたいです。」
「…想像、できない。」

 難しい顔をした圭介に、思わず美海の頬は緩んだ。

「無理もない話です。…あの時の明季ちゃんは、とても疲れていたんだそうです。何もかもが嫌で、毎日が息苦しくて、消え去りたかったんだと言っていました。」
「何があったのか、訊いてもいいこと?」
「…私も詳しくは知らないんです。触れられなかったです。えっと…でも、体育とかで着替える時に身体に傷がたくさんあることだけは…知っていました。何もできなかったですが。」
「傷…。」

 圭介の表情が落ちた。

「…そんな二人は、どうして友達になったの?」
「えっと…前にもお話ししたんですが、…告白されたことが何度かありまして…。」
「あー…うん。」
「お、怒ってますか?」
「怒ってないよ。」
「…眉間に皺、寄ったので。」
「もともとこんな顔。」
「じゃないです!」
「続けて。怒ってないから。」
「…わかりました。」

 ふうと一呼吸おいてから、美海は口を開いた。

「誰とも付き合う気なんてなかったので、その時も断ったんですが、それがどうもクラスの女子の反感をかってしまったようで…一時期、クラスの明季ちゃんを除く大半の女子から無視されたんです。」
「…やっぱり女は怖かった。」
「そう、ですね。辛い部分もあったけど、どこか冷めた部分もあった私はそれほどダメージは受けていなかったんです。人間は簡単に人を嫌いになるし、そもそも…あの頃には誰も信じないくらいには思っていたと思いますし。」
「…うん。」

 圭介の腕が美海の方にそっと伸びてきた。ぎゅっとその広い胸に抱きしめられると、途端に身体中が幸せに包まれる。
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