10回目のキスの仕方
イブの夜に約束を
* * *
クリスマスイブである12月24日。洋一にとっては決戦日とも言える日がやってきた。そわそわしているのはほぼ間違いなく自分だけであろうという悲しい気持ちに目を背けることもできずにここまでやってきた。肝心の待ち人はまだ来ていない。
「…はぁ…。」
ため息が出たのは、何からどう切り出すべきかと考えて、やはり何もまとまらなかったからである。
「あ、ごめん。遅くなった!」
遅くはなっていない。明季は5時よりも5分も前に到着した。
「遅くない。だいじょーぶ。」
「よかったー!てゆーか疲れた今日!」
「バイト終わりに悪い。」
「ううんー。でも夕飯は洋一の奢りで。」
「はいはい。」
そこで『ありがとー』くらいのリアクションを予期していたのに、そんな反応は返ってこなかった。
「ん?なに?」
「いや…だって洋一がやけに何も突っかかってこないから。」
「…はい?」
「反射みたいに何か言い返してくるじゃん、いつもなら。」
「反射みたいに何か言い返してくるのはお前だろ。」
「あたしは洋一ほど反射人間じゃない!」
「反射人間とか意味わかんないわ!」
「こういうのが反射人間だよ!」
「だったら大体お前も変わんねーよ!」
そこまで言うと、今度はふふっと明季が笑った。
「確かに。…変わんない。ごめん。とりあえず、ごちになります。」
「はいはい。ご馳走します。」
手も肩も触れないくらいに開いた距離。並んで歩くことはできるけれど、触れることはできないし、触れさせる気もない相手だ。そんな人に、自分は一体どんな言葉を掛けるのだろうか。
「それで、何が食いたいわけ?」
「んー…なんだろう、クリスマスっぽいもの?」
「信仰心の薄い日本人が何言ってんだよ。」
「…じゃあハンバーグ。」
「じゃあ旨い洋食屋で。」
「うん!」
一瞬だけかすった左手に、熱が走る。走らせた本人は口から白い息をはき出していた。
クリスマスイブである12月24日。洋一にとっては決戦日とも言える日がやってきた。そわそわしているのはほぼ間違いなく自分だけであろうという悲しい気持ちに目を背けることもできずにここまでやってきた。肝心の待ち人はまだ来ていない。
「…はぁ…。」
ため息が出たのは、何からどう切り出すべきかと考えて、やはり何もまとまらなかったからである。
「あ、ごめん。遅くなった!」
遅くはなっていない。明季は5時よりも5分も前に到着した。
「遅くない。だいじょーぶ。」
「よかったー!てゆーか疲れた今日!」
「バイト終わりに悪い。」
「ううんー。でも夕飯は洋一の奢りで。」
「はいはい。」
そこで『ありがとー』くらいのリアクションを予期していたのに、そんな反応は返ってこなかった。
「ん?なに?」
「いや…だって洋一がやけに何も突っかかってこないから。」
「…はい?」
「反射みたいに何か言い返してくるじゃん、いつもなら。」
「反射みたいに何か言い返してくるのはお前だろ。」
「あたしは洋一ほど反射人間じゃない!」
「反射人間とか意味わかんないわ!」
「こういうのが反射人間だよ!」
「だったら大体お前も変わんねーよ!」
そこまで言うと、今度はふふっと明季が笑った。
「確かに。…変わんない。ごめん。とりあえず、ごちになります。」
「はいはい。ご馳走します。」
手も肩も触れないくらいに開いた距離。並んで歩くことはできるけれど、触れることはできないし、触れさせる気もない相手だ。そんな人に、自分は一体どんな言葉を掛けるのだろうか。
「それで、何が食いたいわけ?」
「んー…なんだろう、クリスマスっぽいもの?」
「信仰心の薄い日本人が何言ってんだよ。」
「…じゃあハンバーグ。」
「じゃあ旨い洋食屋で。」
「うん!」
一瞬だけかすった左手に、熱が走る。走らせた本人は口から白い息をはき出していた。