10回目のキスの仕方
* * *
突然始まった告白に、頭がついてこなかった。そして何よりも、上手く隠せていなかった自分に震えが止まらなかった。
「…なんでなんだろって、最近すげー思うわけ。踏み込みたいって…明季はそれを望んでないだろうってのは、わかってはいるんだけど。」
望んでいない。今のままでいい。自分すら大事にできない自分を痛いくらいに知っている。もう何も願わないし、欲しがらないから、誰も自分を必要としないで欲しい。静かに、心穏やかに生きていたいだけだ。美海だけでいい。美海が笑ってくれるだけでいい。圭介と幸せになる美海が、時々笑い返してくれるだけで、いい。
「…でも、ごめん。泣かせる気は、なかった。」
頬に触れて、初めて気付く。自分は泣いている。大学に入ってから、一度も泣いていないのに。
「そんなに嫌なら、忘れていい。ごめん。悪かった。」
違う。洋一にこんな顔をさせたいわけじゃなかった。いつも楽しく笑ってくれる洋一のことは嫌いじゃない。だから、引かれた手も、嫌じゃなかった。嫌じゃないのに、こんな顔をさせてしまう。
「…『忘れる』は…できない。」
「え…?」
「…一度口にしたものを、忘れるなんて…できないよ…。」
視界が涙だけになった。ボロボロと零れ落ちる涙に慌てたのは洋一よりも自分だった。拭っても、こすっても止まらない。不意に洋一の手が自分の手を止めた。
「…こするのはよくない。姉貴の教え。」
「…洋一には…もっといい子がいる。あたしじゃだめ…。」
「意味がわかんない。それは振ってるってことでいいわけ?」
「…振るとか、そういうレベルじゃない。そもそも、あたしと洋一じゃ土俵が違う。あたしは誰かと対等に恋愛できるような…人間じゃない。」
「…それこそ、なんでっていう疑問しか浮かばないんだけど。」
「……じゃあ、見せてあげる。」
元には戻れないのなら、壊してしまった方がいいのかもしれない。そんな昔にも似た感情と思考が蘇ってきて、身体を蝕んだ。
洋一の手を引いて、自分の部屋まで来た。ドアを開けて、玄関の電気を点けた。
「明季…?」
コートを脱ぎ捨てた。壊してしまおう。戻れない。忘れられない。自分ではどうしようもないことは、相手に消えてもらうしかないと思った。
突然始まった告白に、頭がついてこなかった。そして何よりも、上手く隠せていなかった自分に震えが止まらなかった。
「…なんでなんだろって、最近すげー思うわけ。踏み込みたいって…明季はそれを望んでないだろうってのは、わかってはいるんだけど。」
望んでいない。今のままでいい。自分すら大事にできない自分を痛いくらいに知っている。もう何も願わないし、欲しがらないから、誰も自分を必要としないで欲しい。静かに、心穏やかに生きていたいだけだ。美海だけでいい。美海が笑ってくれるだけでいい。圭介と幸せになる美海が、時々笑い返してくれるだけで、いい。
「…でも、ごめん。泣かせる気は、なかった。」
頬に触れて、初めて気付く。自分は泣いている。大学に入ってから、一度も泣いていないのに。
「そんなに嫌なら、忘れていい。ごめん。悪かった。」
違う。洋一にこんな顔をさせたいわけじゃなかった。いつも楽しく笑ってくれる洋一のことは嫌いじゃない。だから、引かれた手も、嫌じゃなかった。嫌じゃないのに、こんな顔をさせてしまう。
「…『忘れる』は…できない。」
「え…?」
「…一度口にしたものを、忘れるなんて…できないよ…。」
視界が涙だけになった。ボロボロと零れ落ちる涙に慌てたのは洋一よりも自分だった。拭っても、こすっても止まらない。不意に洋一の手が自分の手を止めた。
「…こするのはよくない。姉貴の教え。」
「…洋一には…もっといい子がいる。あたしじゃだめ…。」
「意味がわかんない。それは振ってるってことでいいわけ?」
「…振るとか、そういうレベルじゃない。そもそも、あたしと洋一じゃ土俵が違う。あたしは誰かと対等に恋愛できるような…人間じゃない。」
「…それこそ、なんでっていう疑問しか浮かばないんだけど。」
「……じゃあ、見せてあげる。」
元には戻れないのなら、壊してしまった方がいいのかもしれない。そんな昔にも似た感情と思考が蘇ってきて、身体を蝕んだ。
洋一の手を引いて、自分の部屋まで来た。ドアを開けて、玄関の電気を点けた。
「明季…?」
コートを脱ぎ捨てた。壊してしまおう。戻れない。忘れられない。自分ではどうしようもないことは、相手に消えてもらうしかないと思った。