10回目のキスの仕方
「明季お前…何やって…!」
「触らないで!」

 ブラウスのボタンを外して、キャミソール一枚の姿になった。

「っ…!」
「同じじゃない。あたしは…もう身体も心もボロボロで、…こんな姿を見ても…同じだって言える?」

 たばこを押し当てられた痕、何をされたのかも忘れてしまった痣なんかは無数にある。その姿に、やはり洋一は言葉を失くしていた。

「帰って。洋一の知ってる神崎明季は偽者だよ。これが本物。」
「どっちも本物だろーが。本人目の前にして偽者なわけ…。」
「…綺麗じゃないんだよ…あたしは。薄汚れてて、本当はこんな風に大学生活楽しんじゃいけないのに…。」

 光を浴びて、光の虜になって、そうしてここまでやってきた。光の中は楽しくて、輝いていて、だからずっとここにいたかった。でも、本当はちゃんとわかっていた。ここは自分のいるべき場所ではないということも。周りと自分は明らかに違うということも。

「…綺麗じゃないことと、俺が明季を好きなことは何も食い違ってねーよ。別問題だ。だから、それを理由に振られるなら、納得できない。」
「…なんでよ…なんで帰ってくれないの…。納得してよ…。」
「…できない。」

 泣き崩れた自分の背中にそっと伸びてきた優しい腕。背後からそのまま抱き締められた。

「…明季。」
「…離して。」
「ここで離したら、お前は絶対、俺を拒絶する。俺はお前を拒絶しない。むしろ歓迎する。」
「…なんでっ…。」
「理由欲しがるなぁ…明季は。」
「こんなに傷だらけな女を抱けるわけ?」
「傷だらけかよりは、明季かどうかが重要だけど。明季が許してくれるなら抱ける。」
「…初めてを、…身内にとられたって言っても?」
「…本意じゃなかったのに、か?」

 頷いた。本意なんかじゃなかった。嫌だった。怖かった。悲しかった。苦しかった。

「…そんな話までしてくれなくて良かったよ。嫉妬する。」
「…嫉妬?」
「本意じゃないのに襲う趣味はねーけど、先越されたって意味では嫉妬。」

 自分を抱き締める腕が強まった。涙がますます止まらなくなった。
 甘やかさないで。光を見せないで。あなたの傍にいれば、ずっと光の中に居れそうな気がしてしまうから。
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